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2017年4月、第11回HJ文庫大賞にて『銀賞』をいただきました!
2017年5月、ジャンプ小説新人賞’16 Winterにて 小説フリー部門『銀賞』受賞をいただきました!
2017年9月、第30回ファンタジア大賞にて 『金賞』をいただきました!

2017年9月30日(土)、『カンスト勇者の超魔教導 ~将来有望な魔王と姫を弟子にしてみた~』HJ文庫より発売!
第11回HJ文庫大賞『銀賞』受賞作です!

2017-10

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他SS更新:あっきー・まこぴーのクリスマスショートコント

・サンタさん
「襟木君、サンタさんっていつまで信じてた?」
「小三くらい、かな」
「え? 意外と普通……」
「それが何か?」
「うん、いやごめん。なんか変な方向に期待しすぎた」


・ターキーではなく
「クリスマスにさ、ケンタッキーのフライドチキン食べるのってやっぱり間違ってると思わない?」
「確かに。クリスマスといえばシーチキンだと思う」
「うん、それも私の知ってるクリスマスとはちょっと違うかな」
「もちろん飲み物は三ツ矢サイダー」
「もちろん、なんだ……」



・トナカイ
「サンタさんのソリって、トナカイが引いてるっていうイメージじゃない?」
「うん」
「あれって、なんでトナカイなんだろうね? 馬とかでもよくない?」
「馬よりはトナカイの方が空を飛びそうな気がするから、じゃないかな」
「……なんか本当にそんな気がするから不思議だよね」


・雪
「ホワイトクリスマスって素敵だよねー」
「白いだけなのに?」
「え? いや、うんまぁ」
「じゃあ、クリスマスにはんぺんが降っても嬉しい?」
「それはそれで、喜ぶ人はいるんじゃないかなぁ、たまには……」


・靴下
「クリスマスプレゼントって、なんで靴下の中に入れるイメージあがるんだろうね?」
「サンタさんが靴下好きだから?」
「サンタさん靴下フェチなの!?」


・恋人はサンタクロース
「恋人がサンタクロースって、実際どうなんだろうね?」
「プレゼントが優先的にもらえる」
「でも優先的も何も、サンタさんはみんなに平等にプレゼントを配るわけじゃない? そもそも、恋人を作るような歳の人がサンタさんにプレゼントをもらえるようなよい子かってかなり疑問だよね。何より、クリスマスに一緒にいられないっていうディスアドバンテージは大きいと思うの」
「……まぁ、サンタさんは生涯誰とも付き合わないと思う」
「だよねー。あ、でも昇神先輩がサンタさんの格好してたら素敵だよね」
「そう」


・プレゼント
「ねぇねぇ。昇神先輩へのプレゼント、何がいいと思う?」
「味噌」
「……え?」
「味噌。今切れてるって言ってた」
「いや、確かに喜ばれはするかもしれないけどさぁ……」


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過去SS更新:スタンプ的バレンタイン事情

 朝起きて、彗はキッチンへと向かう。
 愛生が帰ってきて以来食事の用意は愛生が担当しているため、以前に比べれば少しだけ遅い時間での起床だ。
 たかたが十数分とはいえ、高校生にとっては寝坊が許されるのはありがたい。
 キッチンに近づくにれ、ほのかに朝食の匂いが漂ってくる……のは、いつも通りなのだが。
「……?」
 鼻を突く、いつもと違った雰囲気に彗はやや不思議そうな顔を浮かべる。
 香ばしいパンの香りでもバターの香りでもない、もっと……甘ったるい香り。
「あらおはよう、彗ちゃん!」
 キッチンの扉を開けると、寝起きでまだ若干テンションの低い彗とは対照的、元気な笑顔で愛生が迎える。
 その笑顔は、いつもよりもどこか嬉しげだ。
「……おはよう」
 挨拶を返しながら、彗はさらに強くなった甘い香りに訝しげな表情を浮かべる。
 これは一体何を原因とする香りなのだろうか。
 そんな彗の疑問は、ほどなくして彗の前に置かれた皿によって解消される。
「はい、朝ごはんよ~!」
「……………………」
 もっとも、その皿は彗にさらなる混乱をも与えたわけだが。
「……なに、これ」
「チョコレートケ~キよん」
 さも当然とばかりに、愛生は彗の前に置かれた明らかにホールサイズなケーキをそう呼ぶ。
 なるほど見るからに甘そうなそれは、世間一般において”チョコレートケーキ”と称される存在に他ならない。
 しかも愛生の手製なのだろうが、その精緻なデコレーションは職人をも唸らせるであろうほど。
 恐らく、味にも相当な期待を持てることであろう。
 しかし、である。
「…………なぜ朝っぱらチョコレートケーキ」
「やぁん、そんなのバレンタインデーだからに決・まっ・て・る・じゃなぁい?」
 どこかどんよりとした雰囲気となっている彗の顔を胸に抱きとめ、愛生はグリグリと頬を擦り付ける。
「だからって、これはちょっとデカすぎ……」
「お母さんの愛の大きさを表現してるのよん!」
「朝っぱらこの愛の大きさは、ちょっと重すぎるだろ……胃袋的に……」
「おはようございまふぅ……なんかいい匂いですね~……」
 母子のやや過剰なスキンシップの最中、円花が扉を開けて入ってくる。
 彗の前に置かれたケーキを見た瞬間、パッと寝ぼけ眼が見開かれた。
「わわ、なんですかそれ!」
「はい、もちろんちゃ~んと円花ちゃんの分もあるわよ」
 キラキラと目を輝かせる円花の前にも、彗と同様のチョコレートケーキが置かれる。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
 珍しく朝から一気にテンションが上がった円花と、逆にだだ下がりの彗が、印象真逆で同じ言葉を紡ぐ。
「ん~! おいしいです!」
 感極まったように頬に手を当て、円花は大層幸せそうな顔でケーキを頬張る。
 そんな、ニコニコと嬉しそうな笑顔で。
「でも、どうして朝からケーキなんです? 今日って誰かの誕生日でしたっけ?」
「あら、円花ちゃんもその質問? 今日はバレンタインデーだ・か・ら」
「おー、なるほどー」
 パクパク食べながら、なぜか感心した様子で円花は頷く。
 が、約1秒ほどのラグを経てその手が止まった。
「……ばれんたいんでー?」
 先ほどまでの幸せそうな顔が、一瞬にして厳しい表情に変わる。
 バッと首を振ってカレンダーを確認。
 2月14日だった。
 バッと首を振ってテレビを確認。
 バレンタインデー特集をやっていた。
 バッと首を振って愛生の顔の方に向き直る。
「……今日って、バレンタインデーでしたっけ?」
「そうだけど?」
 やや不思議そうに、しかし愛生はあっさりと肯定した。
 円花の目がさらに鋭くなる。
『……?』
 突然の態度豹変に、彗も愛生も疑問符を浮かべていた。
 そんな二人の前で、円花は先ほどまで以上の勢いでチョコレートケーキをかっ込む。
 みるみるうちに、ケーキは円花のお腹の中へと消えていった。
「ほごひほうひゃまへひふぁ!」
 恐らく「ごちそうさまでした」と言ったのだろう。
 口の中をいっぱいにしたまま、円花はガタンと席を立った。
 ドダダダと自室に戻ったかと思うと、しばらく。
 再びドダダダとキッチンに戻って来た頃には、制服に着替えカバンを持っていた。
「すみません、今日はお先に。いってきます!」
 ピョコンと跳ねた寝癖もそのままに、すぐさま円花はまたキッチンを後にする。
「い、いってらっしゃい……」
 そんな円花の慌しい登校を、彗はポカンとした様子で見送った。
「なんだ……?」
「……あぁ、なるほど」
 疑問符を頭の上に沢山浮かべる彗の横で、愛生はニンマリと笑みを浮かべた。
「さっすが彗ちゃん、お父さんに似て罪作りね!」
「な、何なんだよ……?」
 再び愛生に頭を抱きしめられ、彗の疑問符はさらに増すのだった。


 そんな朝の騒動を経て、しかしいつも通り彗は学校に到着した。
「あ、すーちゃん。おはよー」
「おぅ、おはよう」
 昇降口付近で弓に会い、互いに挨拶を交わす。
「あれ? 円花ちゃんは?」
「ん、よくわからんけど先に行った」
「ふーん?」
 よくわかっていなさそうな弓に、しかし補足説明もできない。
 なぜなら彗自身よくわかっていないから。
「じゃ、先に着いて……あ」
 弓が、自分の靴箱を開けた瞬間。
 ズザザザザと、どうやって収まっていたのか疑問に思えるほど大量の箱が流れ出してきた。
 大きさや色合いに違いはあれど、恐らくその中身は全て今日のイベントに起因するものだろう。
「……相変わらずだな」
「あ、はは……」
 どこか感慨深げな彗に、弓は苦笑いを返す。
 しばしば女の子と見間違えられそうな容姿を持つ弓は、特に年上のお姉さま方からの人気が高い。
 その中のどれだけが本気なのかはさておき、彗にとって例年この日のこの光景は既に慣れたものである。
「え、と……いくつか、いる?」
「お前が貰ったんだから、お前が責任持って全部食べなさい」
「うん、だよね……」
 「はは……」と、さらに弓は苦笑いを深める。
「それじゃ、すーちゃんにはこれだけね」
 と、弓はカバンからやや大きめの箱を取り出し彗に渡す。
 その見た目は、弓のゲタ箱に入っていたものと同じような種類であるように見える。
「いや、だから俺が貰うわけにはいかんだろ……」
「ううん。あのね、これはボクが貰ったものじゃなくて……」
 彗の手を取り、ポンとその上に箱を乗せる。
「ボクから、すーちゃんへ」
「? そいつはどうも」
 意図がわからないためか、やや疑問顔ながらもしかし彗は素直に箱を受け取った。
「あ、違うよ! 別に変な意味とかないからね!」
「いやわかってるけど……なぜ頬を染め目を背ける」
「そ、それじゃボク先に行くね!」
「なぜ逃げるように走り去る……」
 何やら変な世界への扉を開いてしまった気分になり、しかし気のせいだろうと彗も自分の靴箱を開ける。
 そこには、もちろん弓と同じ光景など広がってはいない……そう、量的には。
「あれ?」
 彗は、自分の上履きの上に乗った一つの袋に首をかしげた。
 と、ふと猛烈な視線を感じて振り返る。
 柱に身を隠して顔だけ出し、緊張のあまり睨みつけるような目つきで彗の方を観察する秋乃がそこにいた。
「!」
 彗に気付かれたことを悟ると、秋乃はさっと顔も柱の向こうに隠れた。
 普段の彼女ならば、彗が振り向く気配を見せた瞬間に顔を引っ込め、実際に見つかるなどという失態は犯さないであろう。
 しかし今回に限っては、彗はバッチリ秋乃の姿を目撃していた。
 緊張のため、反応が数段鈍くなっていたのだろうか。
「は」
 得心したように、彗は口元に小さく笑みを浮かべる。
 靴箱から綺麗にラッピングされた袋を取り出し、秋乃が隠れた柱の方をじっと見つめる。
 ほどなくして、そーっと秋乃が再び顔を覗かせたタイミングを見計らって。
「サンキュ」
 袋を揺らして、笑顔でそう言った。
「っ!?」
 そこだけ見えている秋乃の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まる。
 柱から全身を出し、バッと深く一礼。
 したかと思えば、彗に背を向け一目散に駆け出した。
 それを、彗はどこか微笑ましげに見送って。
「わざわざ俺にもくれるとは、井上も義理堅いよなー」
 どう考えても気合い入りすぎとさえ感じられるはずのそれも、やっぱり彗には届かないのだった。


 昇降口から、2年8組に至るまでの廊下。
「おいっすー、昇神君」
「ん……おはようございます」
 ひらひらと手を振ってくるのは、大きな紙袋を手に持った加藤だった。
 他学年のはずの彼女が、なぜここにいるのか。
 その答えが、ポンと彗に手渡された。
「はい、これチョコレートね」
「はぁ、どうも」
 今日会った誰よりも淡白な態度に、確かめるまでもなく義理であることはわかる。
 極めつけに、彗に渡されたチョコレートが収納されていた紙袋には、同じ外装のものがいくつか入っていた。
「ホワイトデーのお返し、よろしくね」
「あからさまっすね……配ってるんですか?」
「まぁねー。でも、あれよりはマシだと思わない?」
「?」
 加藤が親指で指した先を、疑問の表情で見てみる。
 何やら妙に騒がしかった。
 ほどなくして、その要因が曲がり角から現れる。
「……は?」
 おもわず彗はポカンと口を開けた。
 それはさながら、大名行列のように。
 構成要員は、ほとんどが男である。
 なぜか妙にギラついた男達の、その先頭を歩くのは……朱麗であった。
 ザルに山盛り積まれた何かを、豪快にバラまいている。
 後続の男たちは、それを必死に拾っているようだ。
 コロコロと転がってきたそのうちの一つを、拾い上げてみると。
「……5円チョコ」
 だった。
 さて、ザルにいっぱいとはいえ相撲取りが塩を撒くかのように撒いていてはそれさえもすぐになくなってしまう。
 しかし、朱麗はそのストックさえも用意しているようだ。
 ザルに入った分がなくなれば、後ろをついてきている袋からガサッとこれまた豪快に補充しているのである。
 ちなみに、もちろんひとりでに袋がついてくるはずはない。
 自らの身長よりも大きいであろう袋を、ズルズルと重そうに引きずっている茶玖がいるからこそである。
「何やってんだ、あの人たちは……」
 心の底から、彗はそう呟いた。
 そんな彗に気付き、朱麗が近づいてくる。
「やぁ、彗君。メリーバレンタイン」
「なんだその挨拶は……つーか、何してんだよこんなところで」
「うむ、チョコレートを配っている」
「それは見ればわかる。意図を聞いている」
「世の中、今日という日を恨む輩も多いらしいのでね。それを私が救済してやろうというわけさ」
 と、右手いっぱいに掴んだ5円を放る。
 大変ぞんざいな扱いではあるのだが、放っている朱麗は見た目だけでいえば間違いなく美人と称していい部類である。
 群がってしまうのは、男の悲しい性なのであった。
「……つーか」
 チラリと彗は茶玖の方を見る。
 途端に、ギラリと鋭すぎる視線が返された。
「うるせぇオレの方を見るな殺すぞ」
「はぁ……なんでそんなことになってんの?」
「だからうるせぇと……」
「うむ、私のチョコレートを受け取ったのだ。この程度は当然の対価だな」
「てめぇが無理矢理渡してきたんだろうが!」
 今にも襲い掛かりそうな勢いで茶玖は食って掛かる。
 が、それだけである。
 彗の記憶では、ここで本当に鎌でも作り出してマジバトルを展開しようとするのが茶玖という死神だったはずなのだが。
 まして、文句を垂れながらとはいえこのような姿を晒しているとは。
 なんだかよくわからないうちに、朱麗には逆らえないようにでもなってしまっているのかもしれない。
「そうそう、もちろん彗君にもチョコレートをあげるよ」
「や、もうもらったけど……」
 彗は先ほど拾った5円チョコを見せる。
 しかし、朱麗はフッ……と笑った。
「普段世話になっている君には、さすがにそれでは忍びない。君や弓君、真君たちには別途用意しているよ」
 と彗に手渡されたのは、なるほど見た目からして当たり前だが5円チョコよりも随分とまともだ。
 むしろ、彗の主観では結構高級そうなものであるように見えた。
「はぁ、これはわざわざどうも。こちらこそ普段お世話になりまして……」
 なので、特に意味もなくそんな形式的な挨拶を返してしまう。
 そんな彗に、朱麗はニヤリと笑った。
「うむ。そんな感謝の気持ちを、一ヵ月後にできれば形にして示してもらえると私としては嬉しいな」
「……やっぱりそういうことなのかよ」
「ははは、世の中ギブアンドテイクというやつさ」
「……なぁ」
 彗と朱麗の会話に、茶玖が割り込む。
「さっきから思ってたんだけどよぅ。そいつらに渡してるのとオレが貰ったの、なんかちょっと違うくねぇか?」
「ほぅ、よく気付いたね」
 あっさり肯定した朱麗に、茶玖の目がさらに鋭くなる。
「てめぇ、オレのだけ安物だったり……」
「まさか、その逆だよ。なにせ君のは……」
 クスリと微笑み、朱麗は茶玖の耳元に口を寄せて。
「本命だ・か・ら」
 珍しい艶っぽい声で、そう囁いた。
「あ゛ぁ?」
 しかし茶玖は、そう睨みつけるだけである。
 つまらなさそうに鼻を鳴らし、朱麗は茶玖から離れる。
「なんだ、顔を赤めるくらいはしたらどうかね?」
「そう毎度毎度てめぇの冗談なんぞに振り回されてたまるか」
「ふむ……」
 朱麗は、顎に指をあて。
「冗談……本当にそう思うのか?」
 唐突に真顔で尋ねる。
 その声は平坦で、起伏が少ない。
 茶玖は、たじろいだ様子で少し身を引いた。
「あ゛、あぁ……? なんだよ、それは……」
 睨み合いのような見つめあいが、少しだけ続く。
 そうして。
「くっ……」
 朱麗が、口元を歪めた。
「くく……今のは少しだけ面白かった。やはり君はそうでなくてはいけない」
「てめぇ、このアマ……」
 グググと、今にも殴りかかりそうな勢いで茶玖は拳を強く握る。
「君には、特別今日働いてもらっているからね。君に渡したものだけワンランク上なのは、私なりの気遣いさ」
「そんな気遣いするくらいなら、人選から気ぃ遣えよ……ほら、なんていったかあん時いたアイツ。あの、アロハシャツ着てたやつ。あいつとかなら、喜んでやってくれんだろたぶん」
「おぉ、ラーメン屋君か」
 ポン、と朱麗が手を打つ。
 わかってくれたのかと、茶玖の表情がやや晴れやかになったかと思えば。
「そういえばラーメン屋君にも渡さねばならんな。よし茶玖君、このまま街に繰り出すぞ」
「あ゛ぁ!? なんでそうなるんだよ!」
「ついでに、街中に私の愛をばら撒いてやろう。喜べ茶玖君、君は愛の伝道師の助手になれるのだ」
「何一つとして喜べることなどねぇ!」
 なんてことを言いながら、二人は去っていくのであった。
「……寒い中元気だな、あの人たちも」
 なんとなく、彗はしみじみとそんな年寄り臭いことを呟いた。


 色々あった末ようやく教室に辿り着き、彗は自分の席に腰を下ろす。
 バレンタイン故に、教室は独特のソワソワした雰囲気に包まれていた。
「さて……」
 そんな中、彗も他に倣って今日という日に思いを馳せてみる。
 今日もらったチョコレートは、朱麗、加藤、秋乃、弓、愛生からの朝食もカウントすれば、合計5つである。
「義理ばっかとはいえ、意外と大量だなぁ……」
 ちなみにそのうち一つはバリバリ本命、一つは意図不明なのだが。
 彗にとっては等しく義理チョコである。
「なんか知らんけど朝のうちに大体知り合いに会った感があるし、今年はこの辺りで打ち止めか」
 と、そこでふと気付く。
 知り合いの女性たちから(一部男性からも)次々とチョコレートをもらう中、もう一人。
 その中に、最も身近な少女がいないことに。
「そういや、なんでまだ来てないんだ……?」
 教室を見回してみても、姿が見えない。
 カバンも置いていないし、恐らくまだ登校してきたいないのだろう。
 時刻は、もうそろそろ始業を告げる鐘が鳴ろうかという頃。
 ガラリと勢いよく扉を開け、滑り込んできた少女がいた。
「ま、間に合いました……」
 円花が、多少よろめきながら歩いてくる。
 家を出る時に立っていた寝癖は、やっぱりまだ立ったままだった。
「お前、先に行ってたろ? なんで俺より後に着くんだよ」
「いやぁ、ちょっと寄り道してたもので……」
 彗の前まで来て、ぜぇぜぇ切れている息を深呼吸で整える。
 そして、ニコリと笑顔を咲かせた。
「はい、彗さん。私からのチョコレートですよ」
 差し出された箱に書かれた店名は、彗にも見覚えのあるものだった。
 確か隣の街にある、雑誌等にも紹介される有名なお菓子店の名前だ。
「……まさか、寄り道って」
「はい。ギリギリになっちゃいましたが、間に合ってよかったです。”力”まで使った甲斐がありましたね」
「なんで無駄な使い方を……」
「むぅ、無駄じゃありません。女の子にとっては、今日は大切な日なんですから」
「だったら最初から忘れるなよ」
「むむぅ……忘れちゃってたものは仕方ないじゃないですか」
「……ま、いいや。うん、サンキュ」
 彗が受け取ると、頬を膨らませていた円花の顔に笑顔が戻った。
 しかし、それが少し苦笑い気味のものに変わる。
「本当は手作りとかできればよかったんですけどねぇ。さすがにそこまでは時間がありませんでした」
「はは、足りないのは時間じゃなく腕だろ」
「失礼な。私だってその気になれば……」
「牛乳オ・レを料理と言い張るような奴に作れるチョコレートなどない」
「むむむぅ……もう、彗さん! いいから早く食べてくださいよ!」
「へいへい」
 再び頬を膨らませた円花をいなすように、彗は目の前で丁寧に包装を解いた。
 蓋を開けると、小振りのチョコレートが10個、綺麗に2列で並んでいる。
 端っこの1つを手にとって、自分の口に放り込んだ。
 口の中に、控えめな甘さが広がる。
「ん、美味い」
 さすがに広まった名は伊達ではないらしく、そこら辺のスーパーに売っているようなチョコレートとは根本的に味の質が異なっていた。
 密かに味の分析に入ってしまっているのは、彗のいい癖なのか悪い癖なのか。
「そうですか、よかったです。遠慮せずに全部食べてくださいね」
 そう言いながら、円花の笑顔はなぜかやや引きつり気味だった。
 彗の顔を見て話しながらも、チラチラとチョコレートの方に視線が向く。
 彗は苦笑いを浮かべた。
「ちょっと、口開けてみ?」
「はい? あーん」
 疑問符を浮かべながらも、円花は素直に口を開けた。
 そこに、彗はもらったばかりのチョコレートを1つ放り込む。
「!」
 円花の驚いた表情は、一瞬だけ。
 口の中にチョコレートの味が広がったのであろう。ニヘ、と蕩けるような笑みになる。
 その表情はチョコレートを完全に飲み込むまで続き……嚥下してからようやく、ハッと気付いた。
「って、何するんですか彗さん! 彗さんにあげたものなんですから、彗さんが食べてくれなきゃダメじゃないですか!」
 などと言いながらも、その味を知ってしまったせいだろう。
 チョコレートの方に目が向く頻度は、明らかに先ほどよりも増えていた。
「んな顔してるやつの前で一人だけで食えるかよ。いいから、半分こにしようぜ」
「うー……」
 唸りながら、円花は彗とチョコレートの間で視線を行ったり来たりさせる。
 見ているだけで、その思考が手に取るようにわかってしまう。
 そして彗には、この後出されるであろう結論もまたわかっていた。
「はい、じゃあそうしましょう!」
「あいよ」
 開き直ったのか、晴れやかに笑う円花の口の中に2つ目を放り込む。
 自分でももう1つ口に入れてから、彗は円花の頭の上にポンと手を置いた。
「ん、あんがとな」
 円花は、少しくすぐったそうにしながらも照れたように笑う。
「はい!」


 ちなみに。
 朝っぱらから、色んな意味で甘ったるい空気を出している二人(というか主に彗)はクラス中からおもいっきり殺気を浴びており。
 彗がそれに気付き、また一騒動起こるのは数秒後のことなのだが。
 それはまた、別のお話。




過去SS更新:あっきー・まこぴーの新年ショートコン

・お年玉
「襟木君、お年玉いくらくらいもらった?」
「13万2千……」
「うそ、そんなに?」
「ポイント」
「何の!?」


・初詣
「あけましておめでとう、襟木君!」
「おめでとう、井上秋乃さん。これから初詣?」
「うん、そう。いやぁ、途中で昇神先輩と会う可能性とか考慮して振袖にしたんだけど、これ結構寒いんだね」
「井上秋乃さん、一応忠告しとくけどそれ振袖じゃなくて浴衣だよ」
「……え」
「気付いてなかった?」
「どうりで寒いと思った!」


・新年クイズ
「さて襟木君、ここで唐突ですがクイズです!」
「ホントに唐突だね」
「気にしな~い! では問題! 2007年、今年の干支は何でしょう?」
「偶蹄目イノシシ科のイノシシ」
「別に分類までは聞いてないよ!?」


・新年クイズ2
「さて襟木君、続いて問題! 元旦とは、一体どういう意味を持った日でしょう!?」
「餅が喉に詰まって亡くなったお年寄りに黙祷を捧げる日」
「逆だよ! 餅を喉に詰まらせるから正月なんじゃなくて正月だから餅を喉に詰まらすんだよ!」


・おせち料理
「井上秋乃さん、これから昇神彗さんのうちに行くの?」
「うん、そうだよ。よくわかったね」
「なんとなく、荷物を見て」
「えへへ……やっぱりわかっちゃったか。さっきついたばっかりのお餅を持っていこうと思って」
「そう。でも臼ごとは嫌がらせだととられかねないからやめといた方がいいと思うよ」
「臼……?」
「気付いてなかった?」
「どうりで重いと思った!」


・溜め息
「はぁ……」
「どうしたの、井上秋乃さん。新年早々溜め息なんてついて」
「うん……昇神先輩に年賀状送ったんだけど、まだ返ってこなくて……」
「昇神彗さん、年賀状は出さない派なんじゃない?」
「うーん、そうかもしれないけど……もしかして、住所とかまであぶり出しで書いたのがマズかったのかな?」
「うん、たぶんそれかな」


・溜め息2
「はぁ……」
「どうしたの、井上秋乃さん」
「うん……年賀状書き直そうと思うんだけどね。やっぱり、死之神先輩にも送らなきゃいけないと思うの。でも、住所が一緒だからって昇神先輩と一緒にしちゃうとなんだか夫婦であることを認めるみたいじゃない?」
「さぁ、それは井上秋乃さんの主観だからどうとも」
「で、住所は同じだけど昇神先輩と死之神先輩別々に二通年賀状送ろうと思うんだけど。やっぱり、死之神先輩の分はお餅とか食べられる素材に書いた方がいいのかな~って」
「別に死之神円花さんに送るものが食べ物でなければいけないっていう決まりはなかったと思うけど」


・溜め息3
「はぁ……」
「あれ、今度は襟木君が溜め息? 珍しいね、何かあったの?」
「うん……夜中に唐突にとおりゃんせの歌が聞こえてきたら怖いだろうなって思って……」
「新年早々何に悩んでるの!?」


・年賀状
「襟木君、聞いてよ! 私、年賀状のお年玉くじで3等当たっちゃった!」
「おめでとう。僕も1等当たったよ」
「うそ、1等!? 1等って何もらえるんだっけ!?」
「1万2千ポイント」
「うんごめん、それたぶん私の知ってる年賀状くじと違うやつだ」

お題更新:わ 「悪いけどこっちが先約なの」

「母さん、そろそろ……」
 居間に顔をのぞかせた彗が、わずかに眉を上げる。
 愛生は、携帯電話を手に誰かと通話しているようだ。
「えぇ、えぇ……うん、それはわかってるんだけどね」
 彗に対して右手を上げて、ウインク。
 謝罪の合図だ。
「さっきから言ってるじゃない? 悪いけどこっちが先約なの」
 一方的に言った様子で、愛生は通話を打ち切った。
「ごめんね、すーちゃん。お待たせ」
「いや、まぁいいんだけど。むしろ、よかったのか? なんか俺のせいで電話切らせたみたいになっちまった気がするけど……」
「いいのいいの。仕事の依頼だったんだけどね。これから予定があるって言ってるのに、しつこいの」
「予定って……何かあったっけ?」
「あら酷い。彗ちゃんとお買い物の約束してるじゃない」
「いや買い物の約束て……スーパー行くだけだろ。そこは仕事優先しなくてよかったのか?」
「いいのよん。たかだか、家が一つ滅ぶかどうかの瀬戸際って程度だし」
「重過ぎる!?」
 くすくす、愛生は笑う。
「冗談よ、冗談」
「どっからどこまでが……?」
 16年生きてきて、未だに母のジョークセンスが理解できない彗である。
「つか、そういや母さんの仕事って何なんだ? 一回仕事が入ったら、何年か出てってることも多いけど」
「大きい仕事が入ったら、ね。最近でも、小さいお仕事ならちょくちょく入れてるのよ? 今みたいなね」
「そうなの? んで、結局母さんの仕事って」
「すーちゃん」
 愛生の目が少しだけ細まる。
 笑顔でありながら、彗の背に寒気が走った。
「もうちょっと彗ちゃんが大きくなったね? 今はほら、”危ない”から」
「……了解」
 一も二もなく、彗はただ素直に頷いた。
 16年生きてきて、未だに母の底が知れない彗であった。


お題SS更新:を 「をいをい」

 とある海沿いの倉庫の前に、茶玖は立っていた。
 手には封筒。
 地図と、「ここに来い」という意図が書かれた手紙が入っていた。
 一枚の、写真と共に。
「……チッ」
 一つ舌打ちして、茶玖は倉庫の中へど足を踏み入れた。


 ガラッ。
 意識して大きな音を立てた茶玖に、倉庫中の視線が集まった。
 いわゆる一つの、頬に傷がありそうな人たちが沢山いた。
 しかも、今まさにボスっぽい人たちの間でアタッシュケースの受け渡しが行われているところだった。
 中はわからないが、恐らく一般の方が一生触れることのないようなブツであることは間違いないだろう。
「なんだてめぇは!」
 比較的茶玖に近いところにいた、若い男が懐に手を入れる。
 何かが出てくるであろうことは明らかだったが、しかし茶玖は不敵に笑った。
「をいをいをいをーい、随分楽しそうな奴らが集まってるじゃねぇか」
 いつもと何ら変わらぬ足取りで、茶玖は中心へと歩みを進めていく。
「て、てめ!」
 先ほどの男が取り出したのは、やはり黒光りする拳銃だった。
 一瞬の躊躇を見せたものの、男は容赦なく引き金を引く。
 火薬によって発射された鉛球は、一直線に茶玖のこめかみに向かい……しかし到達する直前、空中でピタリと静止した。
「なんだ……? どうなってる?」
 男たちの間に困惑が走る。
「チッ……おい、アンタの客人か?」
 ボスっぽい人の片割れが尋ねる。
「いや。そっちでもねぇんだな?」
 もう片方のボスっぽい人も尋ね返す。
「あぁ」
「てことは……」
 ボスっぽい人達は、一瞬目を合わせ。
『ぶっ殺せ!』
 それぞれの部下へと、そう命じた。
 男たちが手に手に武器を取り出す。
 そして、発砲。
 倉庫内が騒音と煙、火薬の匂いに包まれる。
「なんだったんだ、いったい……」
 面倒くさそうに、ボスっぽい人が鼻を鳴らす。
 やがて、煙が晴れた。
 誰もが、原形もとどめていない人型が床に転がっていることを想像しただろう。
「ったく、いきなり五月蝿ぇんだよ」
 耳を小指でほじりながら、茶玖が先ほどと変わらず歩みを進めている。
『!?』
 一同に、今度こそ大きな動揺が走った。
 しかし、茶玖はそんなことを一切意に介さない。
「いちいち目についた奴にケンカ売るほどオレも若かねぇ。返すもんさえ返しゃ、何もせずに帰ってやんぜ?」
 眼帯に隠されていない方の目で、ボスっぽい人達を睨みつける。
「お、おい! なんか知らないが早く返してやんなよ!」
「はぁ!? そっちだろ!?」
 互いに、ボスっぽい人達がもう片方に詰め寄る。
「……?」
 その様子に、茶玖は首をかしげた。
「オレもどっちかは知らねぇけど、どっちか心当たりくらいあんだろ? ほら、人質だよ人質」
『人質?』
 二人のボスは、同時にポカンと口を開けた。
 何かを隠している様子は一切見られない。
「……? どうなって……」
 茶玖の頭の上に、疑問符が増えた時である。
「なんだ、もう入っていたのか。意外とせっかちだな」
 倉庫の入り口から、そんな声が聞こえた。
「あ゛ぁ!?」
 驚きの表情で茶玖が振り返る。
 悠々と、朱麗が歩いてきているところだった。
「お前、なんで、え……?」
「なんだね? まるで幽霊でも見たみたいに」
 明らかに動揺している茶玖に、朱麗は首をかしげた。
「いや、これ……」
 茶玖が封筒を見せる。
 例の地図と手紙が入っていた封筒だ。
「あぁ。それは私が出したものだが?」
「はぁ!? お前が出したのか!?」
 なんでもないことのように言った朱麗に対して、茶玖の驚きは劇的だった。
「何をそんなに驚いている? それを見たからここに来てくれたのだろう?」
「そりゃそうだけどよ……じゃあ、この写真は……」
 と、茶玖は同じ封筒からから写真を撮り出した。
 写真の中心に写っているのは朱麗。
 その周りには、ここにいるようなお兄さんたちが沢山写っていた。
「あぁ、よく撮れているだろう?」
 写真を受け取り、朱麗は満足げに頷いた。
「今回のターゲットと一緒に撮ったんだ。それで、最後の望みがここの二組織の壊滅だっていうんでね。ついでだから君に手伝ってもらおうと思ってね」
「なんでそんな写真を一緒に入れんだよ!」
「その一枚で状況は伝わるかと思ってね」
「伝わらねぇよ! むしろだいぶ誤解したよ!」
「ふむ……?」
 朱麗の頭の上に疑問符が浮かぶ。
「しかし、君はちゃんと来てくれているじゃないか。一体何を誤解したんだい?」
「ぬ、それは……」
 茶玖の口元がひくつく。
 ほんの少しだけ、頬が赤くなっていた。
「えぇい、んなこたいい! とにかく、こいつらぶっ飛ばせばいいんだな!?」
 そんな顔を隠すように、茶玖は朱麗に背を向けた。
「あぁ。しばらく動けない程度にな」
「クソ、やってやらぁ!」
 ヤケクソのように、茶玖は男たちの中心へと飛び込んでいった。
 鎌を使うのも面倒とばかりに、素手で相手を殴り飛ばしていく。
「おー、快調だなぁ」
 本来は自分の仕事だろうに、まるで他人事のように朱麗はその様を眺めていた。
「なんだか荒れているようだが、何か嫌なことでもあったんだろうか?」
 首をかしげる朱麗の目の前で、着々と組織は壊滅へと向かっていくのだった。





他SS更新:ペイシェント彗⑤ ~熱い終わり~

「う゛あ゛~……」
 次に目覚めた瞬間、激しい頭痛に彗は顔をしかめた。
 風邪による頭痛ではなく、アルコールによるねっとりとした痛み。
「……あ゛~?」
 自室の光景を見て、彗は再びうめき声をあげた。
「なんつうかさ」
 とりあえず、すぐ傍の椅子に座っている真に話しかけてみる。
「こういうのって、ドタバタしながらも結局はちゃんと看病されて、俺は治ったけど今度はそっちを風邪を引いちゃった、みたいなオチで締まるもんなんじゃないのか?」
「さぁ」
 無表情のまま、真は首を傾けた。
「そんでな」
 はぁ、と一度溜め息を吐いて。
「一応聞くが、なんでこんなことになってんだ?」
 部屋のところどころで気持ち良さそうに、あるいは唸りながら眠る、、円花、秋乃、弓。
 その面々を見ながら、彗は尋ねた。
「味見」
 一言で表されたその惨状の原因。
「あの卵酒飲んだのかよ……」
 しかし、たった一言でも十分彗には伝わったらしい。
「さすがにお前は飲まなかったか」
 平気そうにしている真に、苦笑いを送る。
「いや、飲んだ」
 しかし、真は首を横に振った。
「そうなのか? んじゃあ、意外と酒強かったりするのか?」
「そうでもないと思う」
「そうか? けど……」
 彗の言葉の途中。
「だから、この通り」
 それだけ言って、真もベッドの方へと倒れこんだ。
「……なんで時間差なんだよ」
 真の寝顔を見ながら、彗はうんざりと呟いた。
 酔ってなお保たれていた無表情は、驚くことに寝ていてもなお健在だった。
「……俺も、もっかい寝るか」
 彗は再びベッドに寝転がる・
 まだ少しアルコールが残っているのか、眠気はすぐにやってきた。 
(多くは望まない。せめて、次に目覚めたときに見る惨状が今以下でありますように)
 そんな、ささやかにして無意味に難易度が高そうな願いを胸に、彗は眠りについた。
 その願いが叶えられたのかどうかは、定かではない。



他SS更新:ペイシェント彗④ ~さらに熱く~

「あ゛~……」
 ゆっくりと、彗は目を開ける。
 頭がぼーっとしていた。
「……あ?」
 胸のあたりの肌に直接当たる冷たい感触に気付き、意識はクリアになった。
 目を向けると、胸に聴診器が当てられているのが確認できた。
 そして、それを持っている真のことも。
「……何やってんの?」
「診察」
 彗の目覚めにも、気付いていたのかいなかったのか。
 淀みなく真は応えた。
「いや、だからなんでそんなことしてるんだよ……」
「大丈夫、医師免許とか持ってないから」
「そ、そうか……」
 妙に自信に溢れているような気がする(調子自体はいつもの淡々として抑揚の欠けたものだったが)真の声に、一瞬納得しかける。
 が、今のセリフをもう一度頭の中で繰り返し。
「……いやそれまったく大丈夫な理由になってないだろ! むしろ凄い普通のことだから! そんでそういうこと言ってるんじゃないし!」
 ツッコミと共にガバッと起き上がる。
「意外と元気」
 あまり意外そうじゃない顔で、真が言う。
「ていうか、元々そこそこ元気だからな……」
「でも、せっかくみんなで来たし。ゆっくりしておけばいいと思う」
「ぬ……」
 確かにやり方はどうあれ、みな善意からやっていることなのであろう(真に関しては若干微妙)。
 むしろだからこそタチが悪いという説もあるが。
「……お前が言うなよ」
 とりあえず、小さくそう言うだけでとどめておいた。
「たぶん、そろそろ死之神円花さんが……」
「彗さん!」
 はかったかのようなタイミングで、部屋の中に円花が入ってきた。
 右手には液体の入ったコップを持っている。
「ほら、卵酒ってやつを作ってみました! 真さんに作り方調べてもらったんです!」
 嬉しそうに、しかしコップの中身をこぼさないよう慎重な足取りで円花が歩み寄る。
「ん、あぁ。サンキュ」
 さっきの真とのやり取りもあったからか、彗は素直にコップを受け取った。
「卵酒とは、今時珍しいな……」
 彗も、聞いたことはあるが実際に見るのは初めてだった。
 だから……あるいは、風邪のせいで思考能力が下がっていたこととも合わさって。
 彗は、気付かなかったのである。
 その卵酒が、一般的なものよりも随分緑がかっているという事実に。
 コップに口をつけた瞬間に感じる香りが、明らかに異臭であることに。
 一口目を口に含む段階に至ってなお、気付かなかったのである。
 喉の奥に流し込んでから、ようやく気付いた。
「ぶはっ!?」
 既に口の中に入っていた二口目を吐き出す。
「ちょ、お前、これ……濃っ!」
 喉を通るドロリとした感覚。
 瞬時に来る胸の熱さ。
 そして、襲ってくる吐き気と強烈な匂い。
 間違いなくその卵酒は、通常ではありえないほどのアルコール濃度を保持していた。
「濃い? 私、何か作り方間違えましたかね?」
「作り、方、っつーか……材、料の問題、だ……おま、これ、日本酒じゃ、ねぇだろ……」
 はっきりと発音できない舌で、しかししっかりとツッコミだけは入れておく。
「お酒なら何でもいいのかと思ってたんですが……違うんですかね?」
「んなわけ、あるか……つか、いったい、何使ったんだ……」
「えっと、何ていいましたかね……アブ……虻?」
「アブサン?」
 「うーん」と唸る円花に、横から真が尋ねる。
「あ、そうですそう!」
 パッと顔を上げて円花は指を立てた。
「銘柄は?」
 引き続き真が尋ねる。
「んー、なんか化学の授業で出てきそうな名前の……」
「デリリウム、かな」
「そうそう、それです! すごいですね!」
 円花の賞賛を受けつつ、真は彗の方に向き直った。
「アブサン。アルコール度数は60%以上。ウォッカなんかよりも余裕で高い」
「マジ、か……」
 ただでさえ絶望的な表情となっている彗に、更なる真からの追撃がかかる。
「さらにデリリウムというと、昔ながらの製法で酒造されているはず。原料であるニガヨモギが神経系を侵すという理由で、現代では製造禁止になっている。ただ、密造はしているらしいから今回のはそっちかも」
「なんでそんなもんがウチにあったんだよ……」
「あぁ、それがですね」
 円花が説明を加える。
「ウチに、お酒自体が全然なかったんですよね。だから買いに行ったんですけど、その途中でカプさんに会いまして。事情を話すと、「じゃあこれあげるわ」って言ってくれたんです」
「ふざ、け……」
 そこまで言って、彗の上体がグラリと揺れる。
『あ』
 そして、倒れた。
 真と円花の声が重なる。
「たぶん、元々風邪気味だったところにアルコールが回ったことが原因」
「はぁ、それは……」
 真と円花の会話がわずかに耳に入ってくる中、彗の意識は完全に落ちた。

他SS更新:ペイシェント彗③ ~熱すぎたあの子~

「じゃ、ボクは氷とか持ってくるから。すーちゃんのこと、よろしくね」
「はい、了解です」
 彗をベッドに寝かせた後、弓はすぐに部屋を出て行った。
 残された秋乃は、軽く室内を見回す。
「へぇ、これが昇神先輩の部屋……」
 小さく呟きかけ、言い終わる前に秋乃の顔が真っ赤に染まった。
(しょ、しょしょしょしょ昇神先輩の部屋!?)
 今更ながらにその事実を認識し、秋乃の鼓動は一気にトップギアまで上がる。
(しかも二人きり!? 何これ!?)
 秋乃の頭の中は混乱を極めていた。
 なまじ回転が速いだけに、思考が次々に進んでいく。
(うわわ、どうしよう……あ、ていうか昇神先輩の寝顔…………………………………………はっ、見とれてる場合じゃない! ん、場合じゃない? じゃあ今はどんな場合? 辻樹先輩は「よろしくね」って言ってたけど……じゃあ、別に今私は何もしなくていいんじゃない? ていうか、寝顔を観察するのってむしろ正しくない? 苦しそうにしてたりしないか確認しなきゃいけないわけだし。正しいよね? うん、正しい正しい)
 という結論に至り、秋乃は適当に椅子を引っ張ってきてベッドの隣に座った。
 何をするでもなく、彗の顔を眺める。
 すーすーと規則正しい寝息だけが、室内に響いていた。
(うわ、なんていうか、これはかなりクるものが……)
 とっくにトップギアだったはずの心臓が、さらに高鳴っていく。
(こ、これはアレ? やっぱりお約束どおり、く、くく唇を奪いにいくべきですか? いくべきですよね? でもお約束どおりだとすると、昇神先輩が直前で目を開けちゃうんじゃあ……でもそうなった場合、「こうやったら私に風邪が移って、昇神先輩は治るかと思いまして」とか天然っぽく言っとけばよくない? あれ、でも私って天然キャラだったっけ?)
 加速、加速、加速。
 思考と鼓動が加速していく。
(いく? いくの? いっちゃうの? でも辻樹先輩が「すぐに気付くはず」って言ってたし、でもそうなったら「こうやったら私に」……って、なんか思考ループしてる? オッケー、もうこの際他のことを考えるのはやめにしよう。いくかいかないかの二択だ。いく? それとも、いく? あ、ダメだこれもう一択だ)
 ヒートアップしすぎて焼き切れ寸前。
 逆に思考が鈍っていく。
 秋乃の体が徐々に前へと傾いていき、ついに腰が浮いた瞬間。
「お待たせー」
 ドアが開き、弓が部屋の中に入ってきた。
「……………………」
 少し腰を浮かせた体勢で固まったまま、秋乃は動かない。
「秋乃ちゃん?」
 弓の呼びかけに、呼応するように。
 秋乃の体がゆっくりと、今度は横向きに傾いた。
「うわ!?」
 持って来ていた洗面器を素早くその場に置き、弓が神速で秋乃を支える。
「ちょ、どうしたの? 風邪うつったとか? って、それちょっと早すぎない?」
 脳をフルに使っていた状況でいきなり外部からの刺激が発生したため、処理しきれなくなっただけではあるのだが。
 弓の手の中で目を回している秋乃が持つは、彗よりもよっぽど高くなっていた。
「何か問題でも?」
 開いたままの扉から真が顔を出す。
「あぁ、なんか秋乃ちゃんが倒れちゃって……」
「そう」
 とだけ言って歩み寄り、真は秋乃の顔を覗き込む。
「……たぶん、脳がオーバーヒートしただけだから。とりあえず寝かせておけばいいと思う」
 的確な判断だった。
「あぁ、じゃあ来客用の部屋に……」
「いや。そこは今、死之神円花さんの部屋になってるから。昇神彗さんの両親の部屋を使わせてもらうのがいいと思う」
「……まこちゃ、、すーちゃん家に来たことあるの?」
「直接は今回が初めて」
「そ、そう……」
 言いながら、真は秋乃を担いだ真を彗の両親の部屋に誘導する。
 数え切れないほどこの家に上がったはずの弓よりも、なお慣れた足取りだった。



他SS更新:ペイシェント彗② ~昇神家お見舞い隊~

 ピンポーンというインターホンの音に、家の主――昇神彗――はドアから顔を覗かせた。
「あーい……」
 返事は間延びした鼻声で、出てきた顔は明らかにいつもよりも赤い。
「あ? なんでわざわざインターホン鳴らして……」
 ドア向こうにいるのが円花であることを確認して、一瞬怪訝そうな表情になる。
 が、すぐにその後ろにいる面々に気付いた。
「なんだ、みんな揃って」
「昇神先輩、お見舞いに来ました!」
 秋乃が元気に挨拶する。
「見舞い? いや、確かに風邪気味ではあるが別にそこまで……」
「すーちゃん、病人は大人しく寝てなきゃダメだよ?」
 弓が一歩踏み出す。
「いや、だからそこまでは……ん?」
 言いかけて、彗は弓の不審な行動に気付いた。
 弓は、自分の体を彗の体の下にもぐりこませるようにして間合いをつめている。
 しかし、気付くのが遅すぎた。
「ほぐっ!?」
 弓の拳が彗の腹へとめり込んだ。
「ほら、こんなのも避けられないじゃない」
「お、ま……」
 彗の意識が落ちていく。
 倒れる彗の体を、素早く弓が支えた。
「じゃ、ボクはすーちゃんをベッドまで運んでくるから」
 ニッコリと笑う弓に、円花の秋乃は複雑な表情だ。
「弓さん、結構無茶しますね……」
「こうでもしないと、すーちゃんは無理しそうだからね」
 悪気はなさそうだった。
「むしろ、今のダメージは大丈夫なんですか……?」
 秋乃が心配げに尋ねる。
「綺麗に入れといたからね。すぐに目覚めると思うよ」
「はぁ、そうなんですか……」
 慣れた様子で彗を運んでいく弓の後について、秋乃も昇神家に足を踏み入れる。
 さらにその後を真と円花も続く。
「それじゃあ、僕もやることをやる」
「私にも何かできることってありますかね?」
 円花の問いに、真は「ん」とだけ応えてノートパソコンを開いた。

他SS更新:ペイシェント彗① ~熱いあいつ~

「最近、彗さんが熱いんです」
 開口一番、円花はそう言った。
 場所は神無砂希学園小会議室。
 申請さえすれば、基本的に誰でも使うことができる部屋だ。
 本日そのにいる人間は三人、それと死神(見習い)が一人。
 人間側の面子は、辻樹弓、襟木真、そして。
「……死之神先輩」
 井上秋乃は、静かに立ち上がった。
「あれですか? ノロケですか? 昇神先輩と熱い夜を過ごしてるぜってことですか? ていうかぶっちゃけケンカ売ってますか? 買いますよ?」
 秋乃が一気にまくしたてる。
 表情がないのが逆に恐ろしかった。
 そのプレッシャーに一歩下がりつつ、円花は慌てて首と手を横に振った。
「い、いや違うんです! 熱いですよ物理的に! 身体が熱いんです!」
「昇神先輩のことを考えただけで身体が熱くなるってことですか。しかし、きっと私の方が熱く……」
「井上秋乃さん」
 秋乃の言葉を遮って、真がコップを差し出す。
「カルシウム」
 中には白い液体が注がれていた。
「あ、牛乳オ・レですね?」
 円花が嬉しそうに言う。
 が。
「いや。ただの牛乳」
「……そうですか」
 即座に否定され、円花は若干うなだれた。
 そもそもただの牛乳と牛乳オ・レにいかほどの違いがあるのかという疑問はあったが、その辺りはスルーして秋乃は受け取ったコップの中身を一気に飲み干した。
「……ふぅ」
 空になったコップを机の上に置き、幾分冷静になった目で秋乃。
「……続きをどうぞ」
「あ、はい」
 先ほど下がった分の一歩を戻し、円花は続ける。
「とにかく、昨日から彗さんの熱がすごいんですよ。肩に触っただけで、服越しでも熱さが伝わってくるんです」
「それはマズいかもしれない」
 真の発言に、一同の視線が集まった。
 視線の中心で、真はいつも通りの無表情で淡々と言う。
「例えば、ネッタイシマカという虫に刺された場合などが想定される。初期症状は発熱。数日後には発疹が全身に現れ始め、そこからさらに数日放置すると最悪の場合」
 一拍置かれた間に、円花と秋乃が息を呑む。
「死に至る」
 そう続くとはわかっていたが、実際に言葉として紡がれるとショックは大きい。
「その、なんとか蚊っていうのに、彗さんが刺されたと?」
 緊張の面持ちで、円花が尋ねる。
「あくまでも可能性の話だけど」
「そんな……早くなんとかしないと!」
 立ち上がろうとした秋乃を、真が手で制す。
「たぶん大丈夫」
「大丈夫って……」
 不安げに真を見た秋乃の表情が、何かを閃いたように輝く。
「もしかして、ワクチン持ってるとか?」
「いやないけど」
「じゃあ……」
「ネッタイシマカの主な分布はアンゴラ、カメルーン、ガンビア、ギニア、マリ、ケニア、ナイジェリア、スーダン、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルーなど。日本にはまずいない」
『……………………』
 一同、一瞬の沈黙。
「……じゃあ、次の可能性について考えましょうか」
 秋乃が仕切りなおす。
「彗さんがいないとツッコミ不在で大変ですね……」
 小さく円花が呟く。
「それにしても、彗さんはいったいどんな難病にかかってしまったんでしょう?」
「治療法がある病気ならいいんですけど……」
「他の可能性としては……」
 円花、秋乃、弓の話し合い。
 円花が彗の諸症状を話、真や秋乃がそれに対する可能性を述べる。
 そんな流れが、何度か繰り返された頃。
「……て、いうかさ」
 それまで沈黙を保っていた弓が口を開く。
「普通に風邪なんじゃない?」
『……………………』
 一同、再び沈黙。
 ただし、今回は円花の秋乃の顔が驚きに染まっていた。
 「それだ!」とでも言いたげな表情だった。
 日本一紙一重の天才が多い学校、神無砂希学園。
 そこに通う生徒たちがその結論に至るまでに要した時間は、実に2時間52分であった(円花に関してはプラス約一日)。



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