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受賞歴:
2004年、第1回スクウェア・エニックス小説大賞『入選』
2008年、第5回トクマ・ノベルズEdge新人賞『徳間デュアル文庫特別賞』
2017年、第11回HJ文庫大賞『銀賞』
2017年、ジャンプ小説新人賞’16 Winter 小説フリー部門『銀賞』
2017年、第30回ファンタジア大賞 『金賞』

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過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~桃太郎 episode4 オーパーツの追従~

 犬の代わりに死神見習いを仲間に加えた彗くんは、さらに鬼が島を目指します。
「さて、この辺で猿が仲間になる予感がするんだが……」
 今度は猿探しモードに入り、彗くんは目を皿のようにして猿を探します。
 どんな猿なんだろう。ニホンザルなんだろうか、意表をついてリスザルとかなのだろうか。日光猿軍団での勤務経験はあるのだろうか。
 彗くんはこれから出会うことになるであろう猿に思いをはせます。
 本来ならば、そんな彗くんの耳の猿の鳴き声以外は入ってこないはずでした。
  ブロロロ……
「……ん?」
 しかし、さすがの彗くんもその音を意識の外にはじき出すことはできなかったのです。
「何の音だ?」
  ブロロロロ
 音は後方から、徐々に近づいて来ているようでした。
 彗くんと死神見習いは後ろを凝視します。
 すると、やがて二人の視界にそれは飛び込んできました。
  ブロロロロー!
「な……!?」
 それは軽トラでした。
 薄汚れた白は、その軽トラが数々の道を走ってきたことを物語っています。
 その筋の人々を魅了してやまない美しいフォルムが、彗くんの前で止まります。
「鬼が島まで行くの?」
 そして窓を開け、顔を出したのは無表情でした。
 彗くんが持つ、朱麗さんからもらった『鬼が島まで』と書かれたヒッチハイク用の旗に目を向けています。
「それなら方向一緒だから、乗って行っていいよ」
 無表情は、淡々とそう言います。
 そのあたりで、ようやく彗くんは遥か彼方へと旅立っていた自分と再会することができました。
「ってお前、さすがにそれはダメだろ!」
「なにが?」
 無表情は首をかしげます。
「時代考証! こんなあからさまに出てきちゃダメだろ! せめて会話の中だけくらいにしとけよ! 百歩譲ってヒッチハイクはいいとしても、この時代なら馬車とかだろ!」
「馬車がいいの? わかった」
 頷いて、無表情は顔を引っ込めます。
 そして、自らの乗る軽トラの運転席で言いました。
「チェンジ、馬車」
 するとどうでしょう、無表情の乗っていた軽トラの形状が見る見る変化していくではありませんか。
 彗くんたちの見ている前で、軽トラはたちまち見事な馬車に変わりました。
「はい、これでいいでしょ」
 無表情が再び顔を出します。
 彗くんは、今度は比較的近場までしか旅立っていなかったらしい自分を呼び戻します。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なにそれ、何の力!?」
「科学の力」
「魔術の力とか言っとけよそれならまだごまかしきくんだから! 現代のテクノロジーも超えちゃってるじゃねぇか!」
「まぁ、その辺は気にせずに」
「いられるか!」
「それじゃあ彗さん、せっかくだから乗せていってもらいましょう」
 必死に現実への抵抗を試みる彗くんをよそに、死神見習いはさっさと無表情の馬車に乗り込みます。
「何勝手に乗ってんだよ!」
「いいじゃないですか。歩いて行くと疲れますし、履き慣れていない靴だと靴擦れを起こす可能性だって……」
「だから慣れてる靴だから大丈夫なんだよ! でもってこの時代は草鞋とかそんなの!」
「じゃあ出発しようか」
「あ、こら勝手に俺を乗せるな!」
 こうして、彗くんの了承を得ることなく半ば強制的に無表情が仲間になりました。
 鬼が島は、もうすぐそこです。




 つづく

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過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~桃太郎 episode3 イレギュラーとの邂逅~

 家を出発した彗くんは、順調に鬼が島へと向かっていました。
 しかし、彗くんには一つ不安があります。
 それは、鬼を相手にするにあたり彗くん一人で戦えるのだろうかということでした。
 もちろん鬼退治を決意するくらいに彗くんは腕っ節に自信がありましたが、鬼は大層強いと聞きます。
 けれども、彗くんの不安はそう大きいものでもありませんでした。
 なぜならば、彗くんには予感があったのです。
「なんかこの辺で、仲間に出会えそうな気がする」
 具体的に言うと、彗くんは犬っぽい何かと出会える予感が猛烈にしていたのです。
 彗くんは、目を皿のようにして犬を探します。
 仲間になる犬はどこにいるのだろう、どんな犬なのだろう、血統書はついているのだろうか。
 彗くんは、まだ見ぬ仲間・犬について想像を膨らませます。
「あの……」
 そして、想像と犬探しに集中するあまり彗くんはその声に気付きませんでした。
「あの」
 今度は先ほどよりも少し大きな声で、呼びかけがありました。
 しかし彗くんには聞こえません。
 なぜならば彗くんの耳は今、どんな犬の情報をも聞き逃すまいという方向に集中しているのです。
 犬の鳴き声以外のものなど、聞こえるはずもないのです。
「え、そうなんですか……? えと、じゃあ……ワン!」
 苦し紛れの犬の鳴き真似に、しかし今度彗くんは猛烈な反応を見せました。
 尋常ではない速さで振り返り、犬はどこだ、犬はどこだと辺りを見回します。
 しかし、どこにも犬は見当たりませんでした。
 そこにいるのは、死神見習いくらいのものです。
「あの……」
 振り返った彗くんにホッとした表情で、死神見習いは再度呼びかけを試みます。
 しかし未だ犬探しモードに入っている彗くんにはやはりその声は届きませんでした。
「えー……? ワ、ワン! ワンワン!」
 必死に犬の鳴き真似をすると、今度こそ彗くんの目はそちらに向きました。
 再びホッとした表情になる死神見習いとは対照的に、彗くんはあからさまに失意の表情です。
「なんだ、人間かよ……」
 彗くんのあまりの落胆ぶりに心を痛めつつも、ようやく彗くんの感心が自分に向いたチャンスです。
 ここぞとばかりに、死神見習いは彗くんに話しかけます。
「あの、私とってもお腹がすいてるんです!」
「そうか、それはよかったな」
 死神見習いの言葉は音声としてはようやく届くようになりましたが、しかしその意味までは彗くんの頭に到達しませんでした。
 たとえ今死神見習いが「あなたを殺させてください」と言ったところで、彗くんの返事は同じだったことでしょう。
「それじゃあな」
 死神見習いからはさっさと興味をなくし、彗くんは歩いていこうとします。
「ま、待ってください~」
 ここで去られるわけにもいかない死神見習いは、最後の力を振り絞って彗くんの足にすがりつきます。
「……ん?」
 そこで彗くんは、ようやく犬探しモードから現世に舞い戻ってきました。
 自分の足にすがりついている死神見習いに目を向け、ぎょっとした表情になります。
 なにせ、彗くんの認識からすれば何の脈絡もなく唐突に自分の足を死神見習いが掴んでいたのですから。
 しかしあからさまに力尽きかけている死神見習いに、彗くんも心配そうな表情になりました。
「おい、どうした? 持病の癪かなんか?」
「いや、だからお腹がすいてしまって……何か食べるものとか持っていませんか?」
「食べるもの……?」
 彗くんは、チラリと自分の腰の袋に目をやります。
 そこには、カプタインさんがコンビニで買ってきてくれたきび団子が入っているのです。
 明らかに「持っていますよ」という表情の彗くんに、死神見習いの目が輝きます。
 しかし、返す彗くんの表情は困ったようなものでした。
「いやでも、これは犬にあげるようのものだしな……」
「お願いしますよ~。あなたの犬にでも何でもなりますから~」
 生きるか死ぬかの瀬戸際で、死神見習いも必死です。
 鬼畜系の主人公ならば喜んで食いつく場面ですが、しかし彗くんはあいにくエロゲではなく昔話の主人公でした。
 そこで、彗くんは天啓のように思い出します。
「そうだ! きび団子は無理だが、バナナチップスならある! それでいいか?」
「はい、文句があるはずもありません!」
 パッと輝く笑みを浮かべた死神見習いに、彗くんはバナナチップスの袋を手渡しました。
 まったく世の中何が役に立つかわかったもんじゃない、と彗くんはしみじみ思います。
 そして彗くんは、まだバナナチップスを食べている死神見習いを横目に立ち上がります。
「それじゃあな。今度からは行き倒れる前になんか食えよ」
「あ、待ってください!」
 歩き始めた彗君を、死神見習いが呼び止めます。
 犬探しモードに入っていない彗くんは、今度はちゃんと振り返りました。
「まだ何かあるのか?」
「あの……お急ぎなんですか?」
「あぁ、まぁ。一緒に旅してくれる犬探さなきゃならないし」
「なーんだ、それだったらもう大丈夫ですよ」
 死神見習いは、安心したように微笑みます。
「? この辺に使えそうな犬でもいるのか?」
「はい」
 にっこりと笑って、空腹を満たした死神見習いは立ち上がりました。
「さっきも言ったじゃないですか。私が犬になります」
「……そんなもん有言実行しなくていい」
「いえ、有言実行こそが死神への第一歩です。というわけで私は、一生犬としてあなたの傍にいます!」
「待て、一生ってなんだ。最悪鬼退治まででいい」
「そういうわけにはいきませんよ。というわけで、よろしくお願いしますね!」
「待て待て待て待て」
「いえ待ちません! さぁ行きましょう、いざ鬼が島!」
 すっかり元気になった死神見習いは、彗くんを先導するように道を歩き始めます。
 こうして彗くんは、その一生を死神見習いと共に過ごすことになったのでした。



つづく(のだろう)


過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~桃太郎 episode2 冥府への旅立ち~

 心優しい朱麗さんとカプタインさんの間で、彗くんはすくすくと育ちました。
 やがて彗くんは、立派な青年に成長します。
 大きくなった彗くんは、ある日朱麗さんとカプタインさんにこう言いました。
「都の方じゃ今、鬼が暴れているらしい。だから、俺はそれを退治しに行ってこようと思う」
 それを聞いた朱麗さんは、大層驚きました。
 なぜならばここは都から程離れた田舎村です。
 メディアも発展していないこの時代、彗くんが都の情報を知りえる手段は風の便りに聞く噂話くらいのもの。
 しかし朱麗さんは、そんな噂話聞いたこともありません。
 彗くんよりもご近所付き合いの多い朱麗さんが知らない情報を、彗くんが握っているわけはないのです。
 そこで朱麗さんは、可愛そうな人を見る目を彗くんに向けました。
「そうか……彗君、ついに妄想と現実の区別がつかなくなったか……」
「ついにってなに!? 別に今までそんな兆候あったわけじゃないだろ! つーかそういうもんなの! この時代都では鬼が暴れてるもんなの!」
「ふむ、そういうものなのか」
 あっさりと朱麗さんは頷きます。
 「そういうものだ」と言われてしまっては仕方ありません。
 朱麗さんは皆のために自分をある程度抑えることができる、"one for all, all for one"精神溢れる死神さんなのです。
 そして、朱麗さんはあっさりと気持ちを切り替えました。
 過ぎたことは気にしない、それこそが美しさを保つ秘訣なのです。
「では、道中お腹がすくこともあるだろう。これを持って行くといい」
 そう言って、朱麗さんは彗くんに袋を手渡しました。
「これは……」
「君が入っていた桃だ」
 袋の中身は、あかさまに腐乱臭が漂い最早原型をとどめていない桃でした。
「何年ものだよこれ! あからさまにもう腐ってんだろ!」
「ふむ……こういう時のための非常食として君は桃から生まれてきたのではないのかい?」
「そんなわけあるか!」
「そうか。ではこの桃は、これまで通りへその緒代わりとしてとっておくとしよう」
「とっておくのかよ……」
 朱麗さんは袋を大事そうにしまいました。
 自分のお腹を痛めて彗くんを生んだわけではない朱麗さんですが、その代わりに自らの鎌を(果汁で)汚してまで切り裂いたのがこの桃です。
 こんな腐った桃でも、朱麗さんにとっては彗くんとの大切な思い出なのです。
 決して、「これ巨大果物コンテストに出したら優勝できるんじゃね?」とか思いつつもその機会を逸しているうちに腐ってしまったわけではないのです。
「それでは彗君、これを持って行くといい」
 朱麗さんは再度、今度は別の袋を彗くんに渡します。
「これは……」
「バナナチップスだ」
 今度の袋の中身は、スライスされた乾燥バナナでした。
「なんでバナナチップスなんだよ! ここはきび団子な場面だろ!」
「何を言う、バナナは総合栄養食だぞ?」
「そんなの関係ないんだよ! しかもなんでチップスなんだよ!」
「そのほうが日持ちするだろう」
「変な気遣いはいらんわ! ていうかきび団子!」
「なぜそんなにきび団子にこだわるんだ。きび団子で何日生きられる? バナナチップスなら一袋あれば3ヶ月は生き抜くことが可能なんだぞ?」
「無理だよ普通に! そういうもんなの! もたなくてもここはきび団子なの!」
「まぁまぁすーやん、ほらこれ」
 横から、今度はカプタインさんが彗くんに袋を手渡しました。
 その袋はビニールで、側面には”Family Mart”などと印刷されています。
「そう言うやろうと思て、ワイがさっきコンビニで買ってきといたったよ」
(出来合いかよ、しかもコンビニの……しかしコンビニにきび団子って売ってんだ……ていうか時代考証無視にも程があるだろ……)
 色々と思うところはありましたが、彗くんは素直にコンビニのきび団子を受け取っておくことにしました。
 ここら辺で妥協しておかないと、永久に旅立つことができないかもしれないと踏んだからです。
「さぁ、これも持って行くといい」
「……わかった。ありがとう」
 受け取らないと外に出してくれない雰囲気を醸し出していたため、彗くんは諦めてバナナチップスも持って行くことにしました。
「よし、では衣装も私が用意してあげよう。鬼退治に行くというのにそんなTシャツと短パンなんて格好もないだろう」
「俺どんだけラフな格好なんだよ! ていうかだから時代考証!」
 実は用意してあった鬼退治衣装に身を包み、彗くんはいよいよ出発します。
 出発の直前、朱麗さんは彗くんに大きな旗を渡しました。
 なんだかんだで、準備は万端です。
「これは……」
 彗くんは渡された旗をまじまじと見ます。
 ”鬼が島まで”という文字と大きな矢印、そして親指を立てた手の絵が同じく大きく描かれていました。
 見間違いかもしれないので、彗くんは目をこすりもう一度よく旗を見てみます。
 すると彗くんは、やはり先程のは見間違えであったことに気付きました。
 なんと”鬼が島”だと思っていた文字は、実は”鬼が鳥”だったのです。
 それがただのミスだったのか、それとも朱麗さんなりの高度がジョークだったのかは彗くんには知りようもありません。
 ただ、彗くんは静かに視線を朱麗さんに戻しました。
「……何これ」
「ヒッチハイクする時に便利だろう?」
「ヒッチハイクはしないんだよ! 歩いていくの!」
「しかし、歩くて行くと疲れるだろう。履き慣れていない靴だと靴擦れを起こす可能性だってある」
「慣れてる靴なので大丈夫なんだよ! ていうかこの時代草鞋とかそんなのだろ!」
「そうか……しかしまぁ、何かの役には立つかもしれない。持って行って損はないだろう」
「単純にこれを持つことに費やす体力分損だと思うんだが……」
 しかし彗くんは、これも素直に受け取っておくことにしました。
 出発前から、もう既に彗くんは疲れ始めていたのです。
 こうして朱麗さんとカプタインさんに見送られ、彗くんはヒッチハイク用の旗を背にバナナチップスとコンビニ製のきび団子を持って歩き始めました。
 そしてこの一歩こそが、後に幾度となく苦難を乗り越え様々な伝説を残すことになる彗くんの第一歩だったのです。





つづく(はず)

過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~桃太郎 episode1 流れ着いたエデン~

 昔々あるところに、朱麗さんとカプタインさんが住んでいました。
「ふむ……なぜ私がお婆さん役なんだ?」
「そら、やっぱ年長組やからちゃう?」
「ん……? む……そういえば、私は生きてる中じゃ歴代登場人物で最年長か」
「そゆこと」
「なるほど」
 朱麗さんが納得したところで、カプタインさんは山にラーメン屋のバイトに、朱麗さんは川に霊を成仏させに行きました。
 朱麗さんが川の付近でターゲットを探していると、どんぶらこ、どんぶらこ、と川から大きな桃が流れてきました。
 しかし朱麗さんは、川から流れてきた桃を食べようとするほどさもしくはありません。
 カプタインさんの昔の蓄えにより、朱麗さんは比較的裕福な暮らしをしていたからです。
 第一川から流れてきた桃など、どんな雑菌や寄生虫が付着しているかわかったものじゃありません。
 しかし、朱麗さんは流れてきた桃を拾い上げました。
「ふむ……川に生ごみを捨てるとは、けしからんな」
 なぜならば朱麗さんは、積極的に公園の掃除なんかをすることはないものの、たまに気が向けばそこら辺に落ちているゴミをゴミ箱に捨てる程度にボランティア精神溢れるタイプの死神なのです。
 朱麗さんは、拾った桃を家に持って帰ることにしました。
 なぜならば今日は月曜日。
 ここら辺の普通ゴミの回収日が水曜日であることを、朱麗さんは知っていたのです。
 そこらのゴミ箱に捨てて帰っては、ゴミの回収車が来る前に桃が腐って異臭を放ってしまうかもしれません。
 それではご近所の方に迷惑がかかってしまいます。
 朱麗さんは、ご近所への気遣いも忘れないタイプのできた死神さんなのです。
 桃を持ち帰ることを正当な理由として、朱麗さんはさっさと仕事を切り上げ帰ることにしました。
 そこら辺が自営業の強みです。
 朱麗さんが家に帰ると、客が来ないことを理由にさっさと店を閉めてきたらしいカプタインさんが既に帰っていました。
 そこら辺が田舎のお店のいい加減なところです。
 ただしカプタインさんはただのバイトであり勝手に店を閉める権利など存在しないのですが、それはまた別のお話ということでした。
 とにもかくにもカプタインさんは、お土産代わりとばかりに大きな桃を持ってきた朱麗さんに大層驚きました。
 それはそうです。
 仕事を早引きした上、びしょ濡れになった桃を持って帰ってくるなど正気の沙汰とは思えません。
「何なん、そんな桃なんて持って帰ってきて。もしかして、トチ狂った?」
 そしてカプタインさんは、自分の感情を素直に表現するタイプの人間でした。
 しかし朱麗さんも、その程度で怒るほど心の狭い死神ではありません。
「いや何、君に食べてもらおうと思ってね」
 朱麗さんの復讐はせいぜい、あからさまに安全性の確認がとれていない桃を食べさせようという、とてもささやかなものでした。
 もちろん、朱麗さんに殺意などはありません。
 もし命に関わるような症状が出たならば、ちゃんとお医者さんを呼んであげようと思っていた程です。
「でもそれ、めっちゃ濡れてない?」
「はは、それはさっき川で洗ってきたからさ。やはり衛生面が不安だからね」
 朱麗さんは、即座に鮮やかな言い訳を何のうそ臭さもなく言い切りました。
「いや、でもなんか嫌な感じがすんねんけど」
「気のせいだろう。ほら私が切ってあげるから、食べるといい」
 有無を言わさず、朱麗さんは死神の鎌を手の中に出現させました。
 とりあえず勢いで、考える前に食べさせてしまおうという作戦です。
 朱麗さんは実は策士だったのです。
「ではいくぞ……ふっ!」
 まるで人を相手にするように、朱麗さんは全力で鎌を振り抜きました。
 それは、朱麗さんなりの桃に対する敬意の評し方なのです。
 拾ってきた桃といえども大地の恵み、朱麗さんは決して蔑ろにはしないのです。
 中に人が入っていたときのことなど、考えもしません。
 それはそうです、桃の中に人など入っているはずがないのですから。
「お……?」
 しかしなんということでしょう。
 朱麗さんは、桃の中に赤ん坊を発見したのです。
 赤ん坊は、桃の中で限界まで縮めて鎌の軌道をギリギリで避けていました。
 赤ん坊はほんぎゃあと泣くことさえも忘れたように朱麗さんを見つめています。
 朱麗さんはふと、赤ん坊の目に驚きと恨みの混じったような感情が宿っている気がしました。
 しかしそれはきっと、危うく赤ん坊を切り裂くところだったという罪悪感が作り出した幻想に違いありません。
 だってもし悪者を探すのだとすれば、それは桃を全力で切り裂いた朱麗さんではなく、世間一般の常識も考えず桃の中などに入ってた赤ん坊の方なのですから。
 それなのにさも自分が悪いかのように心を痛める朱麗さんは、なんと心優しいのでしょう
 実際はきっと、赤ん坊は幼いながらに朱麗さんの美しさに見とれてしまっていたに違いありません。
 朱麗さんは村でも評判の美人さんなのです。
「ふむ……そうだな、君を彗君と名づけよう」
 朱麗さんは、すぐさま赤ん坊の名前を決めました。
 桃から赤ん坊が生まれたことなど歯牙にもかけません。
 朱麗さんは、生まれがどうであろうと差別をするような心ない死神ではないのです。
「うん、えーんちゃう? よろしくな、すーやん」
 カプタインさんも、あっさりと承諾して赤ん坊……彗君に、笑いかけました。
 カプタインさんの場合は、単に性格が大雑把なだけです。
 こうして、満場一致で彗君は朱麗さんとカプタインさんに育てられることになりました。
 もちろん彗君本人の了承をとったわけではありませんが、もし問うたところできっと彗君も了承の返事を返したに違いありません。
 その証拠に、朱麗さんの腕の中にいる彗君はとても幸せそうな顔をしています。
 もしもその表情が引きつっているように見えたなら、それはきっとあなたの心が汚れているからでしょう。
 しかし実はこの彗君こそが、後に鬼退治に行くことになる悲しき宿命を背負った赤ん坊なのでした。




つづく(かもしれない)

通常更新:死亡のお知らせ

どうも、はむばねです。
うんまぁなんていうかアレですね。
風邪というか喉とか咳とかの調子がいよいよのっぴきならない状況になってまいりましたので、ここから私はハイパー休養タイムに入ります。
ていうか、こんな体調でネタなんて出てくるわけねぇだろ。

というわけで、以降の数時間は以前に書いたSSをお楽しみください。
既読の方は申し訳ありません。

お題SS更新:る 「瑠璃のことだよ、ラピスラズリって」

 ある休日の昇神家
「彗さーん」
「んー?」
 午後の休憩に入っていた彗は、円花の呼びかけへと気だるげに応える。
「ラピスラズリ、ってどんなのなんですか?」
 彗の傍に座り、ワクワクした調子で円花が尋ねる。
 彗は意外そうに片眉を上げた。
「お前、そんなに興味あったのか?」
「えぇ、まぁ」
 視線で、「それで?」と円花が促す。
「まぁ、あれだ。和名でいう瑠璃のことだな、ラピスラズリって」
「瑠璃……あれ? 瑠璃ですか?」
 今度は円花が意外そうな顔をする番だった。
「そうだけど?」
 円花の反応に、彗の頭の上には少し疑問符が浮かんだ。
「そうですか。どうもありがとうございます」
 簡潔に礼を言って、円花は立ち上がった。
 一気に興味をなくした様子である。
「なんだったんだ? いきなり」
 立ち去る前に、尋ねてみる。
 すると円花、振り返って少し照れたように。
「いやぁ、ラビオリの仲間かと思ったんですけどねぇ。残念です」
「……まぁ、語感は似てるかな」
 苦笑いで、彗も立ち上がった。
「まぁついでだ。おやつ代わりにラビオリでも作るか」
「わ、ホントですか!」
 円花の笑顔に再び輝きが戻る。
 円花に見えないよう、彗の苦笑いが少しだけ深まった。
「やっぱ色気より食い気か……まさか、婚約指輪よりも食べ物ってことはないだろうな……」
「? 彗さん、何か言いました?」
 小さな呟きが僅かに届いたのか、円花が首をかしげた。
 しかし、彗は苦笑いを引っ込めて肩をすくめる。
「いんにゃ。トマトソースとクリームソース、どっちがいいかなって思っただけさ」
「む、それは確かに重要な問題ですね……」
 顎に指をあて、「むむむ」と円花は真剣に悩み始めた様子。
「ま、そっちの方がらしいわな」
 それを見て、彗も今度は微笑ましげに笑うのだった。


お題SS更新:ぬ 「脱いだ方が好き」

「なぁ、昇神」
「うん?」
 クラスメイト兼放送部部長、川村弘之の呼びかけに、彗は読んでいた本から顔を上げた。
「今、各クラスでアンケートやってんだけどさー。昇神も協力してくれない?」
「ん、別にいいぜ」
 本に栞を挟み、彗は快く承諾する。
「で、何のアンケートなんだ?」
「まぁ、平たく言やぁ先生の人気投票みたいなもんだな。自分が一番好きな先生、一番面白いと思う先生、尊敬できる先生、どんな視点でもいいけど、とりあえず誰かに一票投じてくれ」
「先生かぁ……そうだなぁ」
 頭の中に、何人かの先生の顔が浮かぶ。
 浮かんでは消え、浮かんでは消え……様々な先生の顔をそうしているうちに、結局残った顔は一つだった。
 良くも悪くも、印象度だけは特大の。
「河合先生、かなぁ……ほら、担任だし」
 印象だけで決めるのもどうかと思ったので、一応言い訳に近い理由も添えておく。
「お、昇神も河合先生か」
「も……ってことは、結構票集まってんのか?」
「あぁ。トップクラスの一人だぜ」
「……マジか。あの、ふぁんとむが」
 かつて、その影の薄さゆえ幽霊――ふぁんとむ――とまで呼ばれていた河合教諭。
 その能力が天然なのか、忍者になるという夢のために培ったスキルなのか、どちらなのかは定かではない。
 そんな河合教諭が脚光を浴びたのは、『第一回死之神円花争奪神無砂希最強決定戦(仮)』の時だろう。
 優勝候補筆頭と思われた弓と互角以上の戦いを行ったことをきっかけに、後の神無砂希防衛戦でも立役者として名前が挙げられる。
 今や、神無砂希の名物ともいえよう。
 もっとも、『名物』の理由はその見た目によるところも大きいのだろうが。
「んで、昇神は(着)と(脱)の方どっちに一票入れるんだ?」
「なんだその分類……いやいい、だいたいわかるから」
 恐らく先ほど言及した、『見た目』のことであろう。
 彗としては(着)の方は勘弁願いたかったため、もちろん選択肢はないに等しい。
「俺は、脱いだ方が好きかな……」
「あれ、そうなのか? マイノリティだな」
「そうなの!? (着)の方が人気なの!?」
「だってさ、金魚ってペットとして人気なわけじゃん? だったら、(着)の方が人気あってもおかしくなくね?」
「いやおかしいだろ! スケールってもんを考えろよ!」
「あのヌルヌル具合がたまらない、っていうマニアもいるくらいだぜ?」
「マニアックすぎる!?」
 改めて、神無砂希生徒の特殊性を身にしみて感じる彗なのであった。





お題SS更新:り 「リスクが大きいんです」

「さて時に昇神君。リスク管理が大事だということは、わかっているよね」
「はぁ、まぁ」
 河合教諭を前に、彗は生返事を返す。
「世の中にはリスクが溢れている」
「えぇ、まぁ」
「いつ何時いかなる時に何が起こっても対処できる、それが忍というものだろう?」
「はぁ、そうですか」
 彗の目は、どこか遠くを見つめているようだった。
「というわけで私は、外出する時は基本的にこのスーツを着ているんだね! これなら水中でも活動可能、耐

火装備もあるし、装備も充実! 自分だけでなく、例えば溺れる子供や火災現場に取り残されたネコ、暴漢

に襲われた女性なんかを助けることも可能なのさ!」
 ちなみにここで言うスーツとは、もちろん金魚の姿をしているアレのことである。
「というわけで昇神君、私がこの格好で外を歩いている理由に納得してくれたかな?」
「いえ、あんまり」
「Why?」
「どう考えても、通報されるリスクが大きいです」
 



通常更新:働けども働けども

どうも、はむばねです。

たぶん本日15回目くらいの更新。

正直、もうゴールしていいんじゃないかなっていう気がしてきたよ!

ほら、なんかその辺がSSにも現れてると思いませんか?

「あなた疲れてるのよ、モルダー」とか言ってあげたくなるような内容じゃありませんか?

ないのならば、もう少し頑張ろう。

しかし問題は、これ書いても書いてもストック溜まらないんだけど。

あと、さっきの更新でようやく8作かよ……お題だけでもまだ6分の1とか……

なんなの? この果てしない男坂をまだ上り始めたばっかりだとでもいうの?

だったらもう打ち切ってもいいんじゃないの?



先ほどの更新『ち 「血の匂いがしますね」』について蛇足的補足。

言うまでもないかもしれませんが、これは本編完結後から何年後かのストーリーです。

何年後はわかりません。

数年後かもしれないし、二十年くらい後かもしれない。

いずれにせよ、成長し(、結婚し)た二人が織り成す新たな物語です。

もちろん、あの後は一切何も考えておりません。

なんちゃってダイジェスト系は一応大雑把な(本当にクソ大雑把な)ストーリー軸くらいはあるもんなんですが、あれは本当にあの場面だけが単独で存在するよ!

そういう飛び道具的なネタも織り交ぜていかないと、そろそろ本当にヤバいんだよ!





お題SS更新:ち 「血の匂いがしますね」

 暗闇の中、二つの影が舞う。
「血の匂いがしますね」
 片や、少女。
 顔立ちそのものは幼い作りながら、こうして引き締めた表情をしていれば意外と大人びて見える。
「だな」
 片や、青年。
 精悍な顔つきは、しかしなぜか苦労人然とした印象を見る者に与える。
「今回のターゲットか?」
「十中八九、でしょうね」
「そか。んじゃ、急ごう」
「はい」
 そして、二つの影は暗闇に紛れて姿を消した。


「、っ……」
 腹を撃たれた。
 その経験自体は二度目のことだったが、彼自身はこれが前回と全く違う事象であると考えている。
 前回の時は、痛みで声が出なかった。
 しかし今回は、こうしてニヒルに笑いながら呟いてみたりもできる。
 最初は、痛いというよりも熱かった。
 今はもう少しの痛みと、あとは圧倒的な寒気が残っているだけ。
 彼は理解していた。
 今夜、彼はここで死ぬということを。
 目が霞む。
 いよいよかと思った瞬間、彼の目は何かを捉えた気がした。
 しかし死の間際、それが何であるかを彼が理解することはできなかった。


 次に目を開けた時。
 こんどははっきりと視認できた。
 彼の目に最初に映ったのは、少女の笑顔だった。
「どうも、こんにちわー」
 どうにも場違いな感じがする明るい笑顔で、少女はひらひら手を振っている。
「私のこと、わかりますか?」
「……あぁ」
 声を出してから、彼は自分が声を出せることに驚いた。
 先ほどまでは、うめき声を出すことさえ困難だったというのに。
 気がつけば、先ほどまでの寒気も熱さも、痛みもない。
「よぅ。アンタは、天使かい?」
 少女を見上げる形のままで、彼は尋ねた。
 少女の笑顔が、少し苦笑い気味になる。
「うーん、残念ながら。天使じゃなくて、死神なんです」
 さらっと恐ろしいことを言う。
 しかし彼は、少女の言葉を素直に受け入れた。
 少女の正体がなんであれ、彼女が人間ではないであろうことは既にわかっていたから。
 少女からは、神秘的な何かが感じられた。
「私、昇神円花と申します」
 胸に手を当て、少女はそう名乗った。
 名字を名乗るときに、どこかほんの少しだけ誇らしげな印象を受けた。
「そうかい、そんで死神さんは……俺を、殺しに来たのかい?」
「いえ……」
「は……ムサイおっさんにやられるよりは、アンタみたいなのに殺されるなら本望かもな。どうせなら、最後に一夜お付き合い願いたいところだが」
「えっと……」
 少女が困ったように笑う。
「おいおい」
 そんな少女を庇うように、青年が少女の前に歩み出た。
「人の嫁を口説いてんじゃねぇよ」
 少し不機嫌そうに、青年は少女を半歩分ほど彼から遠ざけた。
「アンタは、誰なんだい?」
 彼の至極もっともな疑問に、彼は片眉を上げた。
「昇神彗。こいつの旦那だよ」
 青年は、親指で少女を指す。
「旦那ぁ……?」
 彼の声には、多分に懐疑的な色が混じっていたことだろう。
 からかうように笑う。
「おいおい、年の差カップルってやつかい? それにしても、ちょっと犯罪臭いな」
「犯罪臭い言うな」
 気にしていたのだろうか。
 青年の頬はヒクつく。
「同級生だよ、これでも」
「おいおい、冗談はよしてくれ」
 彼は肩をすくめた。
「どう見ても、10以上は離れてるだろアンタら。それとも、超童顔と超老け顔のカップルだとでも言うのかい?」
「まぁそんなところで納得してもらっといたらいいい……そんなことは、どうでもいいからな」
 「ふぅ」と青年は息を吐く。
「ま、そりゃそうだ」
 彼も同意しておく。
「んで? 旦那さん、アンタも当然死神なわけなんだろ?」
「いや? 俺は人間だよ?」
 当然の確認だったはずの質問に、まさかの否定が返ってきた。
 面食らった彼の様子を見て取ったのだろう、青年は苦笑いを浮かべた。
「まぁ、そこも興味があるならおいおい話すよ。それよりも、今重要なのはもっと別なことだ」
 青年の顔が引き締まる。
 恐らくは自分より年下なのであろう青年から感じる凄みのようなものに、彼はゴクリと喉を鳴らした。
「いいか? 落ち着いて聞いてくれよ」
 不思議に人を落ち着かせるような声色で、青年は言う。
 事実、彼はどんな話だろうが落ち着いた気分で聞ける気がしていた。
 もっとも数瞬後、それが気のせいだったことを思い知るわけだが。
「アンタは、さっき、ここで」
 一言一言区切るように。
「死んだ」
 青年は、そう言った。




 とある、人間と死神の夫婦。
 そして、一人の霊。
 夫婦にとって、この出会いは他に数あったなんでもない出会いの一つに過ぎないはずだった。
 霊にとっては、人生ただ一度、最後に少しだけ触れた怪異に過ぎないはずだった。
 しかし、この出会いが産む後の物語そして悲劇。
 その片鱗を知る者さえも、今はいない。



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