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受賞歴:
2004年、第1回スクウェア・エニックス小説大賞『入選』
2008年、第5回トクマ・ノベルズEdge新人賞『徳間デュアル文庫特別賞』
2017年、第11回HJ文庫大賞『銀賞』
2017年、ジャンプ小説新人賞’16 Winter 小説フリー部門『銀賞』
2017年、第30回ファンタジア大賞 『金賞』

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過去SS更新:スタンプ的バレンタイン事情

 朝起きて、彗はキッチンへと向かう。
 愛生が帰ってきて以来食事の用意は愛生が担当しているため、以前に比べれば少しだけ遅い時間での起床だ。
 たかたが十数分とはいえ、高校生にとっては寝坊が許されるのはありがたい。
 キッチンに近づくにれ、ほのかに朝食の匂いが漂ってくる……のは、いつも通りなのだが。
「……?」
 鼻を突く、いつもと違った雰囲気に彗はやや不思議そうな顔を浮かべる。
 香ばしいパンの香りでもバターの香りでもない、もっと……甘ったるい香り。
「あらおはよう、彗ちゃん!」
 キッチンの扉を開けると、寝起きでまだ若干テンションの低い彗とは対照的、元気な笑顔で愛生が迎える。
 その笑顔は、いつもよりもどこか嬉しげだ。
「……おはよう」
 挨拶を返しながら、彗はさらに強くなった甘い香りに訝しげな表情を浮かべる。
 これは一体何を原因とする香りなのだろうか。
 そんな彗の疑問は、ほどなくして彗の前に置かれた皿によって解消される。
「はい、朝ごはんよ~!」
「……………………」
 もっとも、その皿は彗にさらなる混乱をも与えたわけだが。
「……なに、これ」
「チョコレートケ~キよん」
 さも当然とばかりに、愛生は彗の前に置かれた明らかにホールサイズなケーキをそう呼ぶ。
 なるほど見るからに甘そうなそれは、世間一般において”チョコレートケーキ”と称される存在に他ならない。
 しかも愛生の手製なのだろうが、その精緻なデコレーションは職人をも唸らせるであろうほど。
 恐らく、味にも相当な期待を持てることであろう。
 しかし、である。
「…………なぜ朝っぱらチョコレートケーキ」
「やぁん、そんなのバレンタインデーだからに決・まっ・て・る・じゃなぁい?」
 どこかどんよりとした雰囲気となっている彗の顔を胸に抱きとめ、愛生はグリグリと頬を擦り付ける。
「だからって、これはちょっとデカすぎ……」
「お母さんの愛の大きさを表現してるのよん!」
「朝っぱらこの愛の大きさは、ちょっと重すぎるだろ……胃袋的に……」
「おはようございまふぅ……なんかいい匂いですね~……」
 母子のやや過剰なスキンシップの最中、円花が扉を開けて入ってくる。
 彗の前に置かれたケーキを見た瞬間、パッと寝ぼけ眼が見開かれた。
「わわ、なんですかそれ!」
「はい、もちろんちゃ~んと円花ちゃんの分もあるわよ」
 キラキラと目を輝かせる円花の前にも、彗と同様のチョコレートケーキが置かれる。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
 珍しく朝から一気にテンションが上がった円花と、逆にだだ下がりの彗が、印象真逆で同じ言葉を紡ぐ。
「ん~! おいしいです!」
 感極まったように頬に手を当て、円花は大層幸せそうな顔でケーキを頬張る。
 そんな、ニコニコと嬉しそうな笑顔で。
「でも、どうして朝からケーキなんです? 今日って誰かの誕生日でしたっけ?」
「あら、円花ちゃんもその質問? 今日はバレンタインデーだ・か・ら」
「おー、なるほどー」
 パクパク食べながら、なぜか感心した様子で円花は頷く。
 が、約1秒ほどのラグを経てその手が止まった。
「……ばれんたいんでー?」
 先ほどまでの幸せそうな顔が、一瞬にして厳しい表情に変わる。
 バッと首を振ってカレンダーを確認。
 2月14日だった。
 バッと首を振ってテレビを確認。
 バレンタインデー特集をやっていた。
 バッと首を振って愛生の顔の方に向き直る。
「……今日って、バレンタインデーでしたっけ?」
「そうだけど?」
 やや不思議そうに、しかし愛生はあっさりと肯定した。
 円花の目がさらに鋭くなる。
『……?』
 突然の態度豹変に、彗も愛生も疑問符を浮かべていた。
 そんな二人の前で、円花は先ほどまで以上の勢いでチョコレートケーキをかっ込む。
 みるみるうちに、ケーキは円花のお腹の中へと消えていった。
「ほごひほうひゃまへひふぁ!」
 恐らく「ごちそうさまでした」と言ったのだろう。
 口の中をいっぱいにしたまま、円花はガタンと席を立った。
 ドダダダと自室に戻ったかと思うと、しばらく。
 再びドダダダとキッチンに戻って来た頃には、制服に着替えカバンを持っていた。
「すみません、今日はお先に。いってきます!」
 ピョコンと跳ねた寝癖もそのままに、すぐさま円花はまたキッチンを後にする。
「い、いってらっしゃい……」
 そんな円花の慌しい登校を、彗はポカンとした様子で見送った。
「なんだ……?」
「……あぁ、なるほど」
 疑問符を頭の上に沢山浮かべる彗の横で、愛生はニンマリと笑みを浮かべた。
「さっすが彗ちゃん、お父さんに似て罪作りね!」
「な、何なんだよ……?」
 再び愛生に頭を抱きしめられ、彗の疑問符はさらに増すのだった。


 そんな朝の騒動を経て、しかしいつも通り彗は学校に到着した。
「あ、すーちゃん。おはよー」
「おぅ、おはよう」
 昇降口付近で弓に会い、互いに挨拶を交わす。
「あれ? 円花ちゃんは?」
「ん、よくわからんけど先に行った」
「ふーん?」
 よくわかっていなさそうな弓に、しかし補足説明もできない。
 なぜなら彗自身よくわかっていないから。
「じゃ、先に着いて……あ」
 弓が、自分の靴箱を開けた瞬間。
 ズザザザザと、どうやって収まっていたのか疑問に思えるほど大量の箱が流れ出してきた。
 大きさや色合いに違いはあれど、恐らくその中身は全て今日のイベントに起因するものだろう。
「……相変わらずだな」
「あ、はは……」
 どこか感慨深げな彗に、弓は苦笑いを返す。
 しばしば女の子と見間違えられそうな容姿を持つ弓は、特に年上のお姉さま方からの人気が高い。
 その中のどれだけが本気なのかはさておき、彗にとって例年この日のこの光景は既に慣れたものである。
「え、と……いくつか、いる?」
「お前が貰ったんだから、お前が責任持って全部食べなさい」
「うん、だよね……」
 「はは……」と、さらに弓は苦笑いを深める。
「それじゃ、すーちゃんにはこれだけね」
 と、弓はカバンからやや大きめの箱を取り出し彗に渡す。
 その見た目は、弓のゲタ箱に入っていたものと同じような種類であるように見える。
「いや、だから俺が貰うわけにはいかんだろ……」
「ううん。あのね、これはボクが貰ったものじゃなくて……」
 彗の手を取り、ポンとその上に箱を乗せる。
「ボクから、すーちゃんへ」
「? そいつはどうも」
 意図がわからないためか、やや疑問顔ながらもしかし彗は素直に箱を受け取った。
「あ、違うよ! 別に変な意味とかないからね!」
「いやわかってるけど……なぜ頬を染め目を背ける」
「そ、それじゃボク先に行くね!」
「なぜ逃げるように走り去る……」
 何やら変な世界への扉を開いてしまった気分になり、しかし気のせいだろうと彗も自分の靴箱を開ける。
 そこには、もちろん弓と同じ光景など広がってはいない……そう、量的には。
「あれ?」
 彗は、自分の上履きの上に乗った一つの袋に首をかしげた。
 と、ふと猛烈な視線を感じて振り返る。
 柱に身を隠して顔だけ出し、緊張のあまり睨みつけるような目つきで彗の方を観察する秋乃がそこにいた。
「!」
 彗に気付かれたことを悟ると、秋乃はさっと顔も柱の向こうに隠れた。
 普段の彼女ならば、彗が振り向く気配を見せた瞬間に顔を引っ込め、実際に見つかるなどという失態は犯さないであろう。
 しかし今回に限っては、彗はバッチリ秋乃の姿を目撃していた。
 緊張のため、反応が数段鈍くなっていたのだろうか。
「は」
 得心したように、彗は口元に小さく笑みを浮かべる。
 靴箱から綺麗にラッピングされた袋を取り出し、秋乃が隠れた柱の方をじっと見つめる。
 ほどなくして、そーっと秋乃が再び顔を覗かせたタイミングを見計らって。
「サンキュ」
 袋を揺らして、笑顔でそう言った。
「っ!?」
 そこだけ見えている秋乃の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まる。
 柱から全身を出し、バッと深く一礼。
 したかと思えば、彗に背を向け一目散に駆け出した。
 それを、彗はどこか微笑ましげに見送って。
「わざわざ俺にもくれるとは、井上も義理堅いよなー」
 どう考えても気合い入りすぎとさえ感じられるはずのそれも、やっぱり彗には届かないのだった。


 昇降口から、2年8組に至るまでの廊下。
「おいっすー、昇神君」
「ん……おはようございます」
 ひらひらと手を振ってくるのは、大きな紙袋を手に持った加藤だった。
 他学年のはずの彼女が、なぜここにいるのか。
 その答えが、ポンと彗に手渡された。
「はい、これチョコレートね」
「はぁ、どうも」
 今日会った誰よりも淡白な態度に、確かめるまでもなく義理であることはわかる。
 極めつけに、彗に渡されたチョコレートが収納されていた紙袋には、同じ外装のものがいくつか入っていた。
「ホワイトデーのお返し、よろしくね」
「あからさまっすね……配ってるんですか?」
「まぁねー。でも、あれよりはマシだと思わない?」
「?」
 加藤が親指で指した先を、疑問の表情で見てみる。
 何やら妙に騒がしかった。
 ほどなくして、その要因が曲がり角から現れる。
「……は?」
 おもわず彗はポカンと口を開けた。
 それはさながら、大名行列のように。
 構成要員は、ほとんどが男である。
 なぜか妙にギラついた男達の、その先頭を歩くのは……朱麗であった。
 ザルに山盛り積まれた何かを、豪快にバラまいている。
 後続の男たちは、それを必死に拾っているようだ。
 コロコロと転がってきたそのうちの一つを、拾い上げてみると。
「……5円チョコ」
 だった。
 さて、ザルにいっぱいとはいえ相撲取りが塩を撒くかのように撒いていてはそれさえもすぐになくなってしまう。
 しかし、朱麗はそのストックさえも用意しているようだ。
 ザルに入った分がなくなれば、後ろをついてきている袋からガサッとこれまた豪快に補充しているのである。
 ちなみに、もちろんひとりでに袋がついてくるはずはない。
 自らの身長よりも大きいであろう袋を、ズルズルと重そうに引きずっている茶玖がいるからこそである。
「何やってんだ、あの人たちは……」
 心の底から、彗はそう呟いた。
 そんな彗に気付き、朱麗が近づいてくる。
「やぁ、彗君。メリーバレンタイン」
「なんだその挨拶は……つーか、何してんだよこんなところで」
「うむ、チョコレートを配っている」
「それは見ればわかる。意図を聞いている」
「世の中、今日という日を恨む輩も多いらしいのでね。それを私が救済してやろうというわけさ」
 と、右手いっぱいに掴んだ5円を放る。
 大変ぞんざいな扱いではあるのだが、放っている朱麗は見た目だけでいえば間違いなく美人と称していい部類である。
 群がってしまうのは、男の悲しい性なのであった。
「……つーか」
 チラリと彗は茶玖の方を見る。
 途端に、ギラリと鋭すぎる視線が返された。
「うるせぇオレの方を見るな殺すぞ」
「はぁ……なんでそんなことになってんの?」
「だからうるせぇと……」
「うむ、私のチョコレートを受け取ったのだ。この程度は当然の対価だな」
「てめぇが無理矢理渡してきたんだろうが!」
 今にも襲い掛かりそうな勢いで茶玖は食って掛かる。
 が、それだけである。
 彗の記憶では、ここで本当に鎌でも作り出してマジバトルを展開しようとするのが茶玖という死神だったはずなのだが。
 まして、文句を垂れながらとはいえこのような姿を晒しているとは。
 なんだかよくわからないうちに、朱麗には逆らえないようにでもなってしまっているのかもしれない。
「そうそう、もちろん彗君にもチョコレートをあげるよ」
「や、もうもらったけど……」
 彗は先ほど拾った5円チョコを見せる。
 しかし、朱麗はフッ……と笑った。
「普段世話になっている君には、さすがにそれでは忍びない。君や弓君、真君たちには別途用意しているよ」
 と彗に手渡されたのは、なるほど見た目からして当たり前だが5円チョコよりも随分とまともだ。
 むしろ、彗の主観では結構高級そうなものであるように見えた。
「はぁ、これはわざわざどうも。こちらこそ普段お世話になりまして……」
 なので、特に意味もなくそんな形式的な挨拶を返してしまう。
 そんな彗に、朱麗はニヤリと笑った。
「うむ。そんな感謝の気持ちを、一ヵ月後にできれば形にして示してもらえると私としては嬉しいな」
「……やっぱりそういうことなのかよ」
「ははは、世の中ギブアンドテイクというやつさ」
「……なぁ」
 彗と朱麗の会話に、茶玖が割り込む。
「さっきから思ってたんだけどよぅ。そいつらに渡してるのとオレが貰ったの、なんかちょっと違うくねぇか?」
「ほぅ、よく気付いたね」
 あっさり肯定した朱麗に、茶玖の目がさらに鋭くなる。
「てめぇ、オレのだけ安物だったり……」
「まさか、その逆だよ。なにせ君のは……」
 クスリと微笑み、朱麗は茶玖の耳元に口を寄せて。
「本命だ・か・ら」
 珍しい艶っぽい声で、そう囁いた。
「あ゛ぁ?」
 しかし茶玖は、そう睨みつけるだけである。
 つまらなさそうに鼻を鳴らし、朱麗は茶玖から離れる。
「なんだ、顔を赤めるくらいはしたらどうかね?」
「そう毎度毎度てめぇの冗談なんぞに振り回されてたまるか」
「ふむ……」
 朱麗は、顎に指をあて。
「冗談……本当にそう思うのか?」
 唐突に真顔で尋ねる。
 その声は平坦で、起伏が少ない。
 茶玖は、たじろいだ様子で少し身を引いた。
「あ゛、あぁ……? なんだよ、それは……」
 睨み合いのような見つめあいが、少しだけ続く。
 そうして。
「くっ……」
 朱麗が、口元を歪めた。
「くく……今のは少しだけ面白かった。やはり君はそうでなくてはいけない」
「てめぇ、このアマ……」
 グググと、今にも殴りかかりそうな勢いで茶玖は拳を強く握る。
「君には、特別今日働いてもらっているからね。君に渡したものだけワンランク上なのは、私なりの気遣いさ」
「そんな気遣いするくらいなら、人選から気ぃ遣えよ……ほら、なんていったかあん時いたアイツ。あの、アロハシャツ着てたやつ。あいつとかなら、喜んでやってくれんだろたぶん」
「おぉ、ラーメン屋君か」
 ポン、と朱麗が手を打つ。
 わかってくれたのかと、茶玖の表情がやや晴れやかになったかと思えば。
「そういえばラーメン屋君にも渡さねばならんな。よし茶玖君、このまま街に繰り出すぞ」
「あ゛ぁ!? なんでそうなるんだよ!」
「ついでに、街中に私の愛をばら撒いてやろう。喜べ茶玖君、君は愛の伝道師の助手になれるのだ」
「何一つとして喜べることなどねぇ!」
 なんてことを言いながら、二人は去っていくのであった。
「……寒い中元気だな、あの人たちも」
 なんとなく、彗はしみじみとそんな年寄り臭いことを呟いた。


 色々あった末ようやく教室に辿り着き、彗は自分の席に腰を下ろす。
 バレンタイン故に、教室は独特のソワソワした雰囲気に包まれていた。
「さて……」
 そんな中、彗も他に倣って今日という日に思いを馳せてみる。
 今日もらったチョコレートは、朱麗、加藤、秋乃、弓、愛生からの朝食もカウントすれば、合計5つである。
「義理ばっかとはいえ、意外と大量だなぁ……」
 ちなみにそのうち一つはバリバリ本命、一つは意図不明なのだが。
 彗にとっては等しく義理チョコである。
「なんか知らんけど朝のうちに大体知り合いに会った感があるし、今年はこの辺りで打ち止めか」
 と、そこでふと気付く。
 知り合いの女性たちから(一部男性からも)次々とチョコレートをもらう中、もう一人。
 その中に、最も身近な少女がいないことに。
「そういや、なんでまだ来てないんだ……?」
 教室を見回してみても、姿が見えない。
 カバンも置いていないし、恐らくまだ登校してきたいないのだろう。
 時刻は、もうそろそろ始業を告げる鐘が鳴ろうかという頃。
 ガラリと勢いよく扉を開け、滑り込んできた少女がいた。
「ま、間に合いました……」
 円花が、多少よろめきながら歩いてくる。
 家を出る時に立っていた寝癖は、やっぱりまだ立ったままだった。
「お前、先に行ってたろ? なんで俺より後に着くんだよ」
「いやぁ、ちょっと寄り道してたもので……」
 彗の前まで来て、ぜぇぜぇ切れている息を深呼吸で整える。
 そして、ニコリと笑顔を咲かせた。
「はい、彗さん。私からのチョコレートですよ」
 差し出された箱に書かれた店名は、彗にも見覚えのあるものだった。
 確か隣の街にある、雑誌等にも紹介される有名なお菓子店の名前だ。
「……まさか、寄り道って」
「はい。ギリギリになっちゃいましたが、間に合ってよかったです。”力”まで使った甲斐がありましたね」
「なんで無駄な使い方を……」
「むぅ、無駄じゃありません。女の子にとっては、今日は大切な日なんですから」
「だったら最初から忘れるなよ」
「むむぅ……忘れちゃってたものは仕方ないじゃないですか」
「……ま、いいや。うん、サンキュ」
 彗が受け取ると、頬を膨らませていた円花の顔に笑顔が戻った。
 しかし、それが少し苦笑い気味のものに変わる。
「本当は手作りとかできればよかったんですけどねぇ。さすがにそこまでは時間がありませんでした」
「はは、足りないのは時間じゃなく腕だろ」
「失礼な。私だってその気になれば……」
「牛乳オ・レを料理と言い張るような奴に作れるチョコレートなどない」
「むむむぅ……もう、彗さん! いいから早く食べてくださいよ!」
「へいへい」
 再び頬を膨らませた円花をいなすように、彗は目の前で丁寧に包装を解いた。
 蓋を開けると、小振りのチョコレートが10個、綺麗に2列で並んでいる。
 端っこの1つを手にとって、自分の口に放り込んだ。
 口の中に、控えめな甘さが広がる。
「ん、美味い」
 さすがに広まった名は伊達ではないらしく、そこら辺のスーパーに売っているようなチョコレートとは根本的に味の質が異なっていた。
 密かに味の分析に入ってしまっているのは、彗のいい癖なのか悪い癖なのか。
「そうですか、よかったです。遠慮せずに全部食べてくださいね」
 そう言いながら、円花の笑顔はなぜかやや引きつり気味だった。
 彗の顔を見て話しながらも、チラチラとチョコレートの方に視線が向く。
 彗は苦笑いを浮かべた。
「ちょっと、口開けてみ?」
「はい? あーん」
 疑問符を浮かべながらも、円花は素直に口を開けた。
 そこに、彗はもらったばかりのチョコレートを1つ放り込む。
「!」
 円花の驚いた表情は、一瞬だけ。
 口の中にチョコレートの味が広がったのであろう。ニヘ、と蕩けるような笑みになる。
 その表情はチョコレートを完全に飲み込むまで続き……嚥下してからようやく、ハッと気付いた。
「って、何するんですか彗さん! 彗さんにあげたものなんですから、彗さんが食べてくれなきゃダメじゃないですか!」
 などと言いながらも、その味を知ってしまったせいだろう。
 チョコレートの方に目が向く頻度は、明らかに先ほどよりも増えていた。
「んな顔してるやつの前で一人だけで食えるかよ。いいから、半分こにしようぜ」
「うー……」
 唸りながら、円花は彗とチョコレートの間で視線を行ったり来たりさせる。
 見ているだけで、その思考が手に取るようにわかってしまう。
 そして彗には、この後出されるであろう結論もまたわかっていた。
「はい、じゃあそうしましょう!」
「あいよ」
 開き直ったのか、晴れやかに笑う円花の口の中に2つ目を放り込む。
 自分でももう1つ口に入れてから、彗は円花の頭の上にポンと手を置いた。
「ん、あんがとな」
 円花は、少しくすぐったそうにしながらも照れたように笑う。
「はい!」


 ちなみに。
 朝っぱらから、色んな意味で甘ったるい空気を出している二人(というか主に彗)はクラス中からおもいっきり殺気を浴びており。
 彗がそれに気付き、また一騒動起こるのは数秒後のことなのだが。
 それはまた、別のお話。




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過去SS更新:あっきー・まこぴーの新年ショートコン

・お年玉
「襟木君、お年玉いくらくらいもらった?」
「13万2千……」
「うそ、そんなに?」
「ポイント」
「何の!?」


・初詣
「あけましておめでとう、襟木君!」
「おめでとう、井上秋乃さん。これから初詣?」
「うん、そう。いやぁ、途中で昇神先輩と会う可能性とか考慮して振袖にしたんだけど、これ結構寒いんだね」
「井上秋乃さん、一応忠告しとくけどそれ振袖じゃなくて浴衣だよ」
「……え」
「気付いてなかった?」
「どうりで寒いと思った!」


・新年クイズ
「さて襟木君、ここで唐突ですがクイズです!」
「ホントに唐突だね」
「気にしな~い! では問題! 2007年、今年の干支は何でしょう?」
「偶蹄目イノシシ科のイノシシ」
「別に分類までは聞いてないよ!?」


・新年クイズ2
「さて襟木君、続いて問題! 元旦とは、一体どういう意味を持った日でしょう!?」
「餅が喉に詰まって亡くなったお年寄りに黙祷を捧げる日」
「逆だよ! 餅を喉に詰まらせるから正月なんじゃなくて正月だから餅を喉に詰まらすんだよ!」


・おせち料理
「井上秋乃さん、これから昇神彗さんのうちに行くの?」
「うん、そうだよ。よくわかったね」
「なんとなく、荷物を見て」
「えへへ……やっぱりわかっちゃったか。さっきついたばっかりのお餅を持っていこうと思って」
「そう。でも臼ごとは嫌がらせだととられかねないからやめといた方がいいと思うよ」
「臼……?」
「気付いてなかった?」
「どうりで重いと思った!」


・溜め息
「はぁ……」
「どうしたの、井上秋乃さん。新年早々溜め息なんてついて」
「うん……昇神先輩に年賀状送ったんだけど、まだ返ってこなくて……」
「昇神彗さん、年賀状は出さない派なんじゃない?」
「うーん、そうかもしれないけど……もしかして、住所とかまであぶり出しで書いたのがマズかったのかな?」
「うん、たぶんそれかな」


・溜め息2
「はぁ……」
「どうしたの、井上秋乃さん」
「うん……年賀状書き直そうと思うんだけどね。やっぱり、死之神先輩にも送らなきゃいけないと思うの。でも、住所が一緒だからって昇神先輩と一緒にしちゃうとなんだか夫婦であることを認めるみたいじゃない?」
「さぁ、それは井上秋乃さんの主観だからどうとも」
「で、住所は同じだけど昇神先輩と死之神先輩別々に二通年賀状送ろうと思うんだけど。やっぱり、死之神先輩の分はお餅とか食べられる素材に書いた方がいいのかな~って」
「別に死之神円花さんに送るものが食べ物でなければいけないっていう決まりはなかったと思うけど」


・溜め息3
「はぁ……」
「あれ、今度は襟木君が溜め息? 珍しいね、何かあったの?」
「うん……夜中に唐突にとおりゃんせの歌が聞こえてきたら怖いだろうなって思って……」
「新年早々何に悩んでるの!?」


・年賀状
「襟木君、聞いてよ! 私、年賀状のお年玉くじで3等当たっちゃった!」
「おめでとう。僕も1等当たったよ」
「うそ、1等!? 1等って何もらえるんだっけ!?」
「1万2千ポイント」
「うんごめん、それたぶん私の知ってる年賀状くじと違うやつだ」

通常更新:ガンダム解禁

どうも、はむばねです。



あなたに送る独り言byはむばね

ガンダム解禁だよー。

私も一応飲んでみたけど、とりあえず濃い。

正直私は、お酒の味はわからないよ!


まぁとりあえず現時点でビールは缶二本あけたわけですが、問題はこの状態であと3時間もつのかってところですね!


お題更新:わ 「悪いけどこっちが先約なの」

「母さん、そろそろ……」
 居間に顔をのぞかせた彗が、わずかに眉を上げる。
 愛生は、携帯電話を手に誰かと通話しているようだ。
「えぇ、えぇ……うん、それはわかってるんだけどね」
 彗に対して右手を上げて、ウインク。
 謝罪の合図だ。
「さっきから言ってるじゃない? 悪いけどこっちが先約なの」
 一方的に言った様子で、愛生は通話を打ち切った。
「ごめんね、すーちゃん。お待たせ」
「いや、まぁいいんだけど。むしろ、よかったのか? なんか俺のせいで電話切らせたみたいになっちまった気がするけど……」
「いいのいいの。仕事の依頼だったんだけどね。これから予定があるって言ってるのに、しつこいの」
「予定って……何かあったっけ?」
「あら酷い。彗ちゃんとお買い物の約束してるじゃない」
「いや買い物の約束て……スーパー行くだけだろ。そこは仕事優先しなくてよかったのか?」
「いいのよん。たかだか、家が一つ滅ぶかどうかの瀬戸際って程度だし」
「重過ぎる!?」
 くすくす、愛生は笑う。
「冗談よ、冗談」
「どっからどこまでが……?」
 16年生きてきて、未だに母のジョークセンスが理解できない彗である。
「つか、そういや母さんの仕事って何なんだ? 一回仕事が入ったら、何年か出てってることも多いけど」
「大きい仕事が入ったら、ね。最近でも、小さいお仕事ならちょくちょく入れてるのよ? 今みたいなね」
「そうなの? んで、結局母さんの仕事って」
「すーちゃん」
 愛生の目が少しだけ細まる。
 笑顔でありながら、彗の背に寒気が走った。
「もうちょっと彗ちゃんが大きくなったね? 今はほら、”危ない”から」
「……了解」
 一も二もなく、彗はただ素直に頷いた。
 16年生きてきて、未だに母の底が知れない彗であった。


通常更新:とりあえず

どうも、はむばねです。

まぁ、とりあえず人の家に来たら基本かなってことで。




あなたに送る独り言byはむばね




あなたに送る独り言byはむばね


30分未満じゃ100秒切れなかったお……




通常更新:ネタがない

どうも、はむばねです。

さすがに、人んちでご飯食べてるだけでネタが出るわけないよね!

というわけで、1回の企画で1度しか使えない伝家の宝刀「ネタがない」解禁だよ!

32時間目までよく粘ったと思うよ。


うん、ここにきてネタの濃度が異常に薄くなっているのはたぶん気のせいではない。




通常更新:鶏肉

どうも、はむばねです。

ガンダム家の様子。




あなたに送る独り言byはむばね


ガンダム君=鶏肉、は研究室では常識です。




あなたに送る独り言byはむばね

ガンダム君はエスパーなので、カバーをかけたままでも本の識別ができます。

(正面に置いてあるのは宣伝用に特別配置)

通常更新:ガンダム家到着

どうも、はむばねです。

ガンダム君の家に到着です。

一人減って6人に。




あなたに送る独り言byはむばね


※クリスマスイブの光景です


ちなみに写真は私以外の5人です。

通常更新:スーパーより

どうも、はむばねです。
ただいま、ガンダム君ちに向かうまでの買い出し中。
さすがにちょっち更新は無理っぽいので携帯より簡易更新。
心から無意味な更新だけどな!

通常更新:ガンダム君がデレたので

どうも、はむばねです。

せっかくのクリスマスイブなので、ガンダム君の家に遊びに行くぜ!

合計7人で!



あなたに送る独り言byはむばね

S島君の持ち物。






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