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受賞歴:
2004年、第1回スクウェア・エニックス小説大賞『入選』
2008年、第5回トクマ・ノベルズEdge新人賞『徳間デュアル文庫特別賞』
2017年、第11回HJ文庫大賞『銀賞』
2017年、ジャンプ小説新人賞’16 Winter 小説フリー部門『銀賞』
2017年、第30回ファンタジア大賞 『金賞』

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お題SS更新:ち 「血の匂いがしますね」

 暗闇の中、二つの影が舞う。
「血の匂いがしますね」
 片や、少女。
 顔立ちそのものは幼い作りながら、こうして引き締めた表情をしていれば意外と大人びて見える。
「だな」
 片や、青年。
 精悍な顔つきは、しかしなぜか苦労人然とした印象を見る者に与える。
「今回のターゲットか?」
「十中八九、でしょうね」
「そか。んじゃ、急ごう」
「はい」
 そして、二つの影は暗闇に紛れて姿を消した。


「、っ……」
 腹を撃たれた。
 その経験自体は二度目のことだったが、彼自身はこれが前回と全く違う事象であると考えている。
 前回の時は、痛みで声が出なかった。
 しかし今回は、こうしてニヒルに笑いながら呟いてみたりもできる。
 最初は、痛いというよりも熱かった。
 今はもう少しの痛みと、あとは圧倒的な寒気が残っているだけ。
 彼は理解していた。
 今夜、彼はここで死ぬということを。
 目が霞む。
 いよいよかと思った瞬間、彼の目は何かを捉えた気がした。
 しかし死の間際、それが何であるかを彼が理解することはできなかった。


 次に目を開けた時。
 こんどははっきりと視認できた。
 彼の目に最初に映ったのは、少女の笑顔だった。
「どうも、こんにちわー」
 どうにも場違いな感じがする明るい笑顔で、少女はひらひら手を振っている。
「私のこと、わかりますか?」
「……あぁ」
 声を出してから、彼は自分が声を出せることに驚いた。
 先ほどまでは、うめき声を出すことさえ困難だったというのに。
 気がつけば、先ほどまでの寒気も熱さも、痛みもない。
「よぅ。アンタは、天使かい?」
 少女を見上げる形のままで、彼は尋ねた。
 少女の笑顔が、少し苦笑い気味になる。
「うーん、残念ながら。天使じゃなくて、死神なんです」
 さらっと恐ろしいことを言う。
 しかし彼は、少女の言葉を素直に受け入れた。
 少女の正体がなんであれ、彼女が人間ではないであろうことは既にわかっていたから。
 少女からは、神秘的な何かが感じられた。
「私、昇神円花と申します」
 胸に手を当て、少女はそう名乗った。
 名字を名乗るときに、どこかほんの少しだけ誇らしげな印象を受けた。
「そうかい、そんで死神さんは……俺を、殺しに来たのかい?」
「いえ……」
「は……ムサイおっさんにやられるよりは、アンタみたいなのに殺されるなら本望かもな。どうせなら、最後に一夜お付き合い願いたいところだが」
「えっと……」
 少女が困ったように笑う。
「おいおい」
 そんな少女を庇うように、青年が少女の前に歩み出た。
「人の嫁を口説いてんじゃねぇよ」
 少し不機嫌そうに、青年は少女を半歩分ほど彼から遠ざけた。
「アンタは、誰なんだい?」
 彼の至極もっともな疑問に、彼は片眉を上げた。
「昇神彗。こいつの旦那だよ」
 青年は、親指で少女を指す。
「旦那ぁ……?」
 彼の声には、多分に懐疑的な色が混じっていたことだろう。
 からかうように笑う。
「おいおい、年の差カップルってやつかい? それにしても、ちょっと犯罪臭いな」
「犯罪臭い言うな」
 気にしていたのだろうか。
 青年の頬はヒクつく。
「同級生だよ、これでも」
「おいおい、冗談はよしてくれ」
 彼は肩をすくめた。
「どう見ても、10以上は離れてるだろアンタら。それとも、超童顔と超老け顔のカップルだとでも言うのかい?」
「まぁそんなところで納得してもらっといたらいいい……そんなことは、どうでもいいからな」
 「ふぅ」と青年は息を吐く。
「ま、そりゃそうだ」
 彼も同意しておく。
「んで? 旦那さん、アンタも当然死神なわけなんだろ?」
「いや? 俺は人間だよ?」
 当然の確認だったはずの質問に、まさかの否定が返ってきた。
 面食らった彼の様子を見て取ったのだろう、青年は苦笑いを浮かべた。
「まぁ、そこも興味があるならおいおい話すよ。それよりも、今重要なのはもっと別なことだ」
 青年の顔が引き締まる。
 恐らくは自分より年下なのであろう青年から感じる凄みのようなものに、彼はゴクリと喉を鳴らした。
「いいか? 落ち着いて聞いてくれよ」
 不思議に人を落ち着かせるような声色で、青年は言う。
 事実、彼はどんな話だろうが落ち着いた気分で聞ける気がしていた。
 もっとも数瞬後、それが気のせいだったことを思い知るわけだが。
「アンタは、さっき、ここで」
 一言一言区切るように。
「死んだ」
 青年は、そう言った。




 とある、人間と死神の夫婦。
 そして、一人の霊。
 夫婦にとって、この出会いは他に数あったなんでもない出会いの一つに過ぎないはずだった。
 霊にとっては、人生ただ一度、最後に少しだけ触れた怪異に過ぎないはずだった。
 しかし、この出会いが産む後の物語そして悲劇。
 その片鱗を知る者さえも、今はいない。



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