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受賞歴:
2004年、第1回スクウェア・エニックス小説大賞『入選』
2008年、第5回トクマ・ノベルズEdge新人賞『徳間デュアル文庫特別賞』
2017年、第11回HJ文庫大賞『銀賞』
2017年、ジャンプ小説新人賞’16 Winter 小説フリー部門『銀賞』
2017年、第30回ファンタジア大賞 『金賞』

2019-09

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過去SS更新:交差する世界

 とある街角。
 彗と円花、制服姿の二人は帰路に就いていた。
 彗の手に二つ、円花の手に一つ、それぞれ近所のスーパーの袋を提げている。
「いやぁ、ギリギリタイムセールに間に合ってよかったですねー」
「だな。まぁ、途中でカプのアホに引っかからなきゃ余裕で間に合ってたわけだけど」
 溜め息を吐く彗に、円花の顔にも苦笑いが浮かぶ。
「まぁまぁ。カプさんも暇だったんですよ、きっと」
「そもそも、今あいつの店営業中だろ。なんで店員が街中ウロチョロしてんだよ……」
「どうせなら、帰りに寄っていきます?」
「時間帯が微妙すぎるだろ。今食べたら晩飯に響くし、晩飯にするには早い」
「別に私は大丈夫ですよ?」
「そりゃまぁお前はそうかもしんないけどさ……」
 苦い表情を浮かべる彗に、円花は一つ頷いた。
「彗さんがそう言うなら構いませんけどね。ところで、今夜のおかずはなんですか? 麻婆豆腐ですか? 麻婆豆腐ですよね?」
「なんでマーボー一択なんだよ」
「食べたいからです!」
「うん、まぁ知ってた」
 いつも通りのやりとりに、彗の表情に変化はない。
 そんな折。
 ふと。
 すれ違う。
「……ん?」
 彗は振り返った。
 たった今すれ違った、高校生と思しき男女。
 その少年の方も、ちょうど振り返っていた。
 目が合う。
 一秒にも満たない間、視線を交わしあう。
「彗さん?」
「ん……」
 円花の呼びかけに、彗は視線を前に戻した。
 最後に、同じタイミングで少年も前に向き直るのが見えた気がした。
「どうかしましたか?」
「あー……」
 どこか奇妙な感覚に、彗はポリポリと頬を掻いた。
「いや、別に」
 しかし結局その感覚に名前をつけることができず、そう答える。
「そうですか?」
「あぁ」
「そうですか」
 首をかしげていた円花も、それだけで納得したようだ。
「で、晩飯の話だったか」
 彗自身先ほどの感覚を気のせいだと切り捨て、話題を戻す。
「まぁ豆腐も買ったし、別に麻婆豆腐でもいいけど。一応、予定では唐揚げだったんだが?」
「じゃあ唐揚げでいいです!」
「切り替え早っ!」
「唐揚げ好きです!」
「うん、だからまぁ知ってたけどさ」
 そして二人は、家へと帰り行く。



 すれ違う。
「……あれ?」
 なんだか奇妙な感覚に襲われて、振り返ってみた。
 さっきすれ違った男女、その男の人の人の方もちょうど振り返っていたようだ。
 少しの間、目が合う。
「リク?」
「あ、ごめん」
 華さんの呼びかけに、慌てて前に向き直った。
 俺が立ち止まっていたせいで少しだけあいてしまった距離を、すぐに詰める。
「知り合い?」
「いや、知らない人……だと、思う」
「?」
 歯切れの悪い俺の言葉に、華さんは首をかしげた。
 しかし俺自身、よくわからないのだから仕方ない。
「知らない人だと思うんだけど、なんか妙に先輩的なものを感じたというか? 異世界の住人に見えたっていうか?」
「はは、リクは時々変なことを言うな」
「……ですよねー」
 自分で言ってても、正直意味がわかりませんもの。
「けどさっきの女の人、可愛いかったな」
「あー、だったねー」
 チラッと見ただけだが、確かに可愛い人だった。
 たぶん、美少女っていうのはあぁいう人のことをいうんだろう。
「リクは、あぁいう人が好みかな?」
「え? い、いやそんなことは!」
 予想外の問いに、慌てて手を振って否定する。
「ふふ……別に、そんなに否定しなくてもいいよ。見知らぬ誰かに嫉妬するほど醜くはないつもり」
「あ、はは……」
 クスクス笑う華さんに、俺は苦笑いで頭を掻く。
「あーあ、でもやっぱりうらやましいな」
 コンと、華さんは足元の小石を軽く蹴った。
「うらやましいって……さっきの人が?」
「うん。私もあれくらい可愛かったら、もっと遠慮なくリクにアタックできるのに」
 うわぉ、てことは現状あれでも遠慮してるってわけですか華さんマジビックリですよ。
 ……と、いう思いはとりあえず胸の内にしまっておく。
「いや、でも……」
 さすがに、気恥ずかしくて。
「華さんも、負けてないと思うよ」
 そのセリフは、ポツリと呟くように小さくなってしまった。
「うん?」
 首をかしげる華さん。
 たぶん、俺の意図は伝わっていないのだろう。
「ほら。華さんも、すごく可愛いから」
 なので、もう一度わかりやすく言い直す。
「ん……」
 華さんの顔が、赤く染まる。
「……ありがとう。リクにそう言われると、すごく嬉しい」
 照れの混じった、しかし眩しいくらいの笑顔が咲いた。
 それは本当に華さんらしくて、とても可愛くて、動悸が三倍ほどに跳ね上がった気がした。
「えーと……そういえばさっきの二人、恋人同士だったのかな? 仲良さげだったよね」
 照れ隠しに、あからさまな話題転換。
「だな。恋人同士っていうか、仲のいい熟年夫婦みたいだった」
 華さんもそれに乗ってくれる。
「私たちも、あんな風になれたらいいな!」
「あ、はは……」
 相変わらずストレートな華さんの言葉に、俺は曖昧に笑っておくことしかできないヘタレなのだった。

過去SS更新:スタンプ・デッド昔話~ヘンデルとグレーテル後編 菓子と家と死神と宿無しの魔法使い~

「そんな、これは……」
 森の中から現れた魔女秋乃は、自分の家があったはずの場所を見て愕然としていました。
 それもそのはず、本来家があるべき場所には現在何もなく、円花がお菓子の最後の一かけらを飲み込んだところだったのです。
「私の……おうちが……」
 魔女秋乃は、がっくりとその場に膝を突きうなだれました。
 予想外のリアクションに、彗と円花も反応に困ります。
「あ、えっと……すみません、まさかそんなにショックを受けるとは思わなかったもので……」
「いえ、所詮これが私の役回りですから……」
 申し訳なさそうに頭を下げる円花に、魔女秋乃は悲しげな笑みを返します。
「はぁ……やっぱり悪いことしてきた報いなのかな……」
 魔女秋乃はうなだれたまま、小さくそんなことを呟いたりしています。
 すっかり”悪い魔女”を退治する気をなくしたどころかかなり気の毒になってきた彗は、魔女秋乃の傍で片膝をつきました。
「なぁ……君は、本当に悪い魔女なのか?」
「えぇ、それはもう悪いことをしてきました」
 今はそのことを反省するように、魔女秋乃は紡ぎます。
「大体この家からして公有地に許可なく建ててますし、税金だって半分以上ごまかしてます。12月には塩漬け株を売却してトータル売却益減らしますし」
「そういう悪さ!? ていうか最後のは普通の税金対策だし!」
「はぁ……」
 再度魔女秋乃はため息を吐きます。
 どうやら家が無くなったダメージは思った以上に深いもののようでした。
 魔女なのだから魔法でちょちょいと建てられそうなものですが、どうやらそれは出来ないようです。
 今のところ、最早魔女ですらもなくただ単に国にケンカを売っているだけの人です。
「あー、と……」
 彗は魔女秋乃に申し訳なく思いました。
 そもそも、魔女を退治にしに行けとけしかけたのも実際にお菓子の家を食べたのも身内の犯行です。
「んじゃ、、ウチに来ないか?」
「え……?]
 だから彗は、そんな提案をしました。
「お菓子の家とはいかんけど、まぁ一応雨風くらいは防げるし」
「いいんですか……?」
「……つーか、まぁ完全にこっちの責任だし」
「でも……」
 魔女秋乃は、再び悲しげに笑います。
「私は、悪い魔女ですから」
「改心したってことにしとけばいいだろ。家はもうなくなったから申請の必要もなくなったし、税金はこれから払っていけばいいさ。株では今までどおり節税していけばいい」
 彗は魔女秋乃に手を差し伸べます。
「あ……」
 半ば呆然とした様子で、しかし魔女秋乃は彗の手を取りました。
 こうして、魔女秋乃は彗たちの家族の一員となったのです。


 魔女秋乃を連れ帰った彗と円花を、朱麗はあっさりと受け入れました。
 最初から魔女など比較的どうでもよかったようです。
 それに、元々食い扶持を減らすために子供を捨てるどころか装備を整えるために100ゴールドを渡せるほどの余裕があった家庭です。
 一人くらい家族が増えたところで特に問題はありませんでした。
 むしろ、すっかり心を入れ替え正しく税金を払い始めた秋乃の持ち前の財テクによりさらに裕福な暮らしをできることとなったのです。
 こうして、四人は末永く仲良く暮らしましたとさ。
 めでたしめでたし。



 お わ り

過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~ヘンデルとグレーテル 前編 そして伝説へ~

  昔あるところに、彗と円花という仲の良い二人がいました。
 ある日のこと、彗と円花は共に暮らしている朱麗に言われます。
「さて彗君に円花君。君たちももうそろそろ大人と呼ばれる年齢に近づいてきた。そこで、君たちには森に住むという魔女を退治に行ってもらい……」
「いやちょっと待て。なんかいきなり話の方向性が大分違わないか?」
「ふ……心配せずとも、装備を揃えるための資金100ゴールドはあげるさ」
「何の話!? ここ貧しい家だから100ゴールドとかないし! あんたは貧しさのあまり子供達を森の中に捨てていくんだよ!」
「む? 私の役割は、16歳になった君たちに自分が勇者であることを知らせることではないのか?」
「それやっぱ確実に違う話だよ! しかもそれだったらなんでさっき100ゴールドあげようとしたんだよ! 100ゴールドあげるのは王様の仕事だろうが!」
「まぁ、結果的には同じことだろう。さっさと森の中の魔女を倒してくるといい」
「いや確かに最後はそうなるけど……こんな物語の始まり方あるのかよ……」
 多分に納得のいかないところはありましたが、始まってしまったものは仕方ありません。
 彗は、円花と共に森に向かいました。
 しかし、森は鬱蒼と生い茂り迷子になりかねません。
 そこで、彗はパンをちじって地面に落としていくことにしました。
 ちなみにこのパンは、結局朱麗にもらうこととなった100ゴールドで買ったものです。
「ま、これでとりあえず退路は確保できたな……」
 安心して彗は歩いていきます。
 しかししばらくして、彗がふと後ろを振り返った時のことです。
 なんと、自分が残してきたはずのパンくずがなくなっているではありませんか。
「……げ、小鳥にでも食べられたか?」
「まさか、そんな勿体ないことしませんよ」
「……は?」
 彗は、自分の後ろをついてきていた円花の方を見ます。
 ちょうど、先程彗が落とした分のパンくずを円花が口に入れたところでした。
「犯人お前かよ!」
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと3秒以内に拾いましたから」
「今時3秒ルール!? ていうかなんで食ってるんだよ!」
「だって、どうせ小鳥に食べられるんですし私が食べても一緒じゃないですか?」
「だからなんでお前ら登場人物のくせに物語の先の話を知ってるんだよ!」
「それより彗さん、早くお菓子の家を目指しましょう」
「一応言っとくけど、本来ならお前はこの先にお菓子の家があるってことも知らないんだからな!?」
 彗と円花は、てくてくと歩いていきます。
 迷子になっているにしては行き先を知っているような妙に確信に満ちた足取りでしたが、それは気にしてはいけないところです。
「さて、そろそろお菓子の家が見える頃ですね……」
「だから、そういうことは本来知らないはずなんだって……」
 果たして円花の言う通り、お菓子の家はすぐに見えてきました。
 彗は、クッキーでできた扉をノックします。
 ボス、ボス、という音しか鳴らず、とても中の人に聞こえるとは思いませんが、物語のあらすじ上ここで悪い魔女が顔を出すはずです。
「……あれ、おかしいな」
 しかし、しばらく待ってみても中から人が出てくる気配はありませんでした。
「どうする? とりあえず入ってみる……って……」
 円花の方を振り返り、彗は途中で言葉を止めます。
 なぜならば、円花はもう全力でお菓子の家を食べ始めていたのです。
「なんでもう食っちゃってんだよ! まだ中の人の了承得てないだろ!?」
「いいじゃないですか、どうせ許可もらえるんですし」
「その先読みいい加減やめろよ!」
 そんなことを言っている間にも、円花はもりもりお菓子を食べていきます。
 数分が経つ頃には、もうお菓子の家は3分の1ほどが円花の胃袋の中に消えていました。
「おいおい、どんだけ食うんだよ……」
 彗がそんなことを呟いたときです。
 グラリ、とお菓子の家が傾きました。
「……え?」
 呆気にとられる彗の目の前で、お菓子の家はガラガラと崩壊していきます。
「あれ、随分と脆い家ですねー。今流行りの手抜き工事ですかね?」
「この時代に手抜き工事は流行ってねぇよ! つーか明らかにお前が食いすぎたからだろ!」
「えー、それはさすがに関係ないですよー」
「さすがにってなんだ!? 関係ないはずがあるか!」
 言っている間にも、円花は瓦礫であるお菓子を食べ続けました。
 二人の前に魔女が現れたのは、そのときだったのです。


 つづく

過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~シンデレラ 解決編 執念と、食欲と~

 舞踏会の翌日から、秋乃姫はさっそく彗を探し始めました。
 名前はわかりません。
 手がかりもありません。
 一応探してみましたが、彗と思しき人物が残していった物品もありませんでした。
 しかし、そんなことは端から承知です。
 それに、彗が残していった物品があったからといってどうだというのでしょう。
 仮に物品……例えばガラスの靴なんかが残っていたところで、それは多少的を絞る基準にはなれど大した手がかりとはならなかったでしょう。
 秋乃姫が人間を判別する基準が、靴のサイズだけだというのならばあるいは多分に意味を持った落し物になったかもしれませんが。
 とにもかくにも、しかし秋乃姫は彗の顔だけはしっかりと脳裏に焼き付けていました。
 思い出そうと思えば、いつでも鮮明に思い出すことができます。
 そこで秋乃姫はただちに宮廷画家を呼び出し、秋乃姫の言う通りの似顔絵を書かせたのです。
 結果、かなり本物の彗に近い似顔絵が出来上がりました。
 秋乃姫は、それを国中に配ります。
 念のため、弓姫に頼んで隣国にまで配ってもらった程の徹底振りでした。
 さらに国家権力まで乱用しまくり、それで一般人の一人や二人が見つからないわけはありません。
 彗と思しき人物の居所が判明するのに、そう時間はかかりませんでした。



「なぁ。この似顔絵さぁ、なんかすーやんに似てない?」
 国から配布された似顔絵と彗とを見比べ、継カプタインは首を傾げました。
「ん……まぁ似てる気もするけど、俺ってこともないだろ」
 しかし、誰であろう彗自身がそれを否定します。
 自分が姫に探される程の人間だとは、露ほども思っていないのです。
 もしもこれに”この者極悪人につき”などの注意書きが書いてあれば、彗も「舞踏会のときのことか……?」と思ったかもしれません。
 しかし、その似顔絵には”秋乃姫の婿候補”と書かれていたのです。
 それが自分なはずがない、と彗は確信を持っていました。
「あぁ、他人の空似というやつだろう」
「ん~、やっぱそうやんね~」
 義朱麗にも言われ、ようやく継カプタインも納得したようでした。
 しかし継カプタインから似顔絵を受け取った義朱麗は、人知れずそれをグシャリと握りつぶします。
(婿候補だと……いい度胸だ、来るなら来てみるがいい)
 そして、そんな義朱麗の心を読んだわけでもないのでしょうが。
 家の扉がノックされたのは、その時でした。
「ん……? はーい」
「いやいい、私が出よう」
 出ようとした彗を押しとどめ、義朱麗が扉に向かいます。
「いや、でも……」
 しかし、彗は納得のいかない表情でした。
 常ならば、こういう雑用系統は真っ先に彗に回ってくるはずなのです。
「いいから。君は、台所で夕食の準備でもしていてくれ。ここは私とおカプタイン様で出る」
「え、ワイも?」
 継カプタインは若干驚いた様子でしたが、特に異論を唱えることもありませんでした。
「ん、じゃあそういうことらしいから。すーやんは引っ込んどき」
「……わかった」
 まだどこか納得のいかない表情ながらも、彗はキッチンの方に引っ込んでおくことにしました。
 元より、彗には二人の命令を断る権限など与えられていないのです。
 彗が奥に行ったのを確認して、義朱麗は扉を開けました。
「随分とお待たせしてしまったね」
 そして、扉の向こうにいた人物を確認して言います。
「それで、何の御用なのかな? 一国の姫君ともあろうお方が、こんなところに」
 周りの制止を振り切り自ら足を運んでいた秋乃姫は、威圧するような義朱麗の視線にも一切ひるみません。
「ここに、彗というお方がいるはずです。その方をお迎えに上がりました」
「ほぅ。それは何かの間違いではあらせられませんか、姫? ウチにはそのような名の者はおりませんが」
 慇懃無礼に、義朱麗はキッパリと拒絶しました。
 しかし、もちろん秋乃姫も引き下がりません。
「調べはついています。何の理由があるのかは知りませんが、邪魔立てをするようなら国家反逆罪とみなしますよ」
 あからさまに、しかもかなり豪快な職権乱用です。
 しかし、秋乃姫の後ろには護衛の兵士数十人が控えています。
 実際、秋乃姫の号令があればすぐさま義朱麗に襲い掛かるでしょう。
 今日の秋乃姫は、それほどまでに本気なのです。
 その本気を感じ取ってなお、しかし義朱麗は不敵に笑います。
「ほぅ? だが、私もここは譲れないのでね。来るというのならば、命の保障はしかねるよ?」
「お、なんや荒事? そういうことかいな」
 鎌を構えた義朱麗に、継カプタインも銃を抜きました。
 状況は一切読めていませんが、彼は暴れられればそれでいいのです。
 そんな二人を前にして、秋乃姫はやはり強い瞳を保ったまま。
 そして、号令は下されました。



「ん? なんか騒がしいな……」
 彗は一瞬玄関の方を振り返りましたが、すぐに料理に興味を戻しました。
 自分を巡る戦いを、完全に他人事として認識しています。
「す~いさんっ!」
 魔法使い円花が現れたのは、その時でした。
 舞踏会の一件以来、彼女は時々こうしてこっそり食事をいただきに来ていたのです。
「おぅ、そろそろ来る気がしてたからちゃんと用意しといたぜ」
「わ、ホントですか。さすが彗さん!」
 そうして、外の騒乱も関係なく。
 二人の世界だけは、平和なのでした。
 めでたしめでたし。



 お わ り

過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~シンデレラ 推理編 憎悪と、純愛と~

 御者(元レゴブロック)に操られた馬(元那須与一宗隆)に引かれた馬車(元カボチャパンツ)に揺られ、彗は舞踏会の開催されているお城へ到着しました。
 しかし、彗はお城の中に入ろうとはしません。
「うーん、さすがにこの格好のままってわけにもいかないよなぁ……」
 彗の格好は、普段家で着ているボロボロの服のままでした。
「そうですね、忘れてました。今から服も変えます」
「ん……?」
 彗が声に振り返ると、そこには先程の魔法使い円花がいました。
「……ん?」
 しかし、彗を見る魔法使い円花の目にはどことなくトゲがあります。
「……なんか怒ってる?」
「いえ、別に。ただ、食べ物の恨みは恐ろしいってことは忘れないでください」
「なんか逆恨みのにおいがプンプンするんだが……」
 魔法使い円花は、彗の服を変えていないことに気付いてしまったせいで麻婆ナスに豆板醤を入れるタイミングを逃してしまったのです。
 しかも、急がないと間に合わないためせっかく作った麻婆ナスを食べることなく彗を追いかけてきたのです。
 もちろんこれから帰って食べる予定ですが、冷めてしまった中華など本来の魅力が半減以下です。
「ま、まぁ何か知らんが……今回の礼に、帰ったらナスカレーでもご馳走するぜ?」
「え、ホントですか?」
 不機嫌だった魔法使い円花の顔が、パッと笑顔に輝きます。
 一瞬にして、もう先程までの不機嫌さはどこにも見当たりません。
「すげぇ勢いで機嫌直ったな……」
「約束ですよ? 破ったらカエルに変えちゃいますからね?」
「ペナルティ重いな! いや、まぁちゃんと作るよ……」
「んじゃ、いきますね~。ぱぱらぱぷ~」
 先ほどとは一転、とても上機嫌な様子で、魔法使い円花はやっぱり適当な呪文を唱えます。
 すると、みすぼらしかった彗の衣装はたちまち凛々しいタキシードに変わり、髪もカリスマ美容師に切ってもらったかのようにビシッと決まっています。
「……お~」
 魔法使い円花自身、そんな彗に一瞬見とれてしまった程でした。
「へぇ、すごいもんだな」
 自分の服や髪を触って見て、彗も感動した様子です。
「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」
「あ、お腹が空くんで12時になったら帰って来てくださいね」
「そんな理由!? いや、まぁ別にすぐ帰ってくると思うけどさ……」
 この場に至ってなお、彗のテンションは大して高くありませんでした。
 舞踏会に出るのも、あくまで馬に変わってしまった那須与一宗隆に申し訳ない気がするからなのです。
 そうして、彗はお城の中へ入っていきました。
「ほ~、これが舞踏会ってやつなのか」
 キラキラとした照明に、流れる美しい音楽。
 出席者は、男性も女性もやたらと着飾っています。
 普段では考えられないほど豪華な衣装を着ているはずの彗も、ここでは相当地味な方に分類されてしまうほどです。
 そんな雰囲気に、さすがの彗も興味深そうに周りを見回しました。
 しかしそんな注意散漫な状態こそが、後のあの悲劇を生み出したのです。



「……はぁ」
 今夜の舞踏会の主賓たる秋乃姫は、そんな風にため息を吐きました。
「また、主賓がそんなため息吐いて。せめて上辺だけでも楽しそうに振舞ってなきゃダメだよ」
 秋乃姫をたしなめるのは、隣国の弓姫です。
「って、なんでボクが姫役なんだろう……」
 ふと我に返ってそんなことを呟く弓姫ですが、煌びやかなドレスで着飾られたその姿はどこをどう見ても美しい姫でした。
「もう、お父様ったらこんな舞踏会まで開いて……私はまだ結婚なんてしないって言ってるのに……」
「秋乃ちゃんにいつまで経っても浮いた話の一つもないからじゃない? とりあえず好きな人でも見つれば?」
「そんなこと言ったって、見つけようと思って見つけられるもんでもないじゃない……」
 はぁ、と秋乃姫はもう一度ため息を吐きます。
 そんな秋乃姫に、招待された男性客は一様に胸をときめかせます。
 元々の美しい顔が物憂げに沈む様は、とても男心をくすぐるのです。
 だから弓姫はあぁ言いましたが、実は秋乃姫のため息もこの舞踏会の目的……秋乃姫の花婿探しからすればとても正しい姿なのでした。
 もっとも、それは秋乃姫の希望とは正反対の効果をもたらします。
「秋乃姫様、私と踊っていただけませんでしょうか?」
 先程から、引っ切り無しに男性が秋乃姫をダンスに誘います。
「いえ、お誘いはとても嬉しいのですけれど遠慮しておきますわ」
 しかし、秋乃姫は先程からことごとくそれを断り続けていました。
 涙ながらに諦めていった男性の数は、もうどれほどになったでしょうか。
 ただ、今回誘ってきた男性は今までの男性と少し違いました。
「そんなことを言わず、さぁ踊りましょう」
 男性はなるほど、世間一般には美男子と呼ばれる部類の人でした。
 恐らく自分に自信があるのでしょう、強引に秋乃姫を引っ張っていこうとします。
「結構です」
「そんなことを言わずに……」
「結構です! ……あっ!」
 秋乃姫が男性の腕を強く振りほどいた時です。
 勢い余って、秋乃姫はバランスを崩してしました。
 普段ならば持ち前の運動神経で間違っても転倒などしない秋乃姫ですが、今夜はあいにく踵の高い靴です。
「秋乃ちゃん!」
 弓姫が飛び出しますが、間に合いません。
 目の前の男性ならば手を差し伸べることもできたのでしょうが、手を振りほどかれたことに驚いたのかそんなことまでは頭が回らない様子でした。
「あっ……」
 体を支えきれず、秋乃姫の体は後ろに倒れていきます。
「へっ……?」
 そして、そんな秋乃姫のすぐ後ろにいたのが彗だったのです。
 まず、秋乃姫の後頭部が彗の左肩に当たりました。
 そのことにより、彗も大きくバランスを崩してしまいます。
 彗はどうにか後ろ足を地面についてバランスをとろうとしました。
 しかし不幸なことに、ちょうどそこにカルガモの親子の行進が通りかかったのです。
 罪のないカルガモの親子を踏んづけるわけにもいかず、さりとて戻すこともできず、彗は結局片足立ち状態になってしまいます。
 もちろんそれで自分の体重と倒れこんでくる秋乃姫の二人分の体重を支えられるはずもなく、彗は秋乃姫と共に後ろに倒れました。
 まず、地面に当たった彗の後頭部に激痛が走ります。
 しかし、そこまででは彗へのダメージはさほど深刻なものではありませんでした。
 本当に彗へのとどめとなったのは、彗の上に倒れこむ際、奇跡的なまでに物凄くいい感じに鳩尾に刺さった秋乃姫の肘だったのです。
「げふっ!?」
「きゃっ!?」
 肺から息を搾り出すような彗のうめき声と、可愛らしい秋乃姫の声が重なりました。
「いった……もう、何をするんですか!」
 特にどこも傷めなかった秋乃姫は、先程の男性を睨みつけます。
「し、失礼しました!」
 一国の姫を転ばせてしまった男性は、青い顔でその場を去っていきました。
 そんな男性の後ろ姿を見送ることもなく、秋乃姫はすぐさま後ろを振り返ります。
「す、すみません! 大丈夫ですか!?」
「が、ふ……」
 しかし、ビクビクと痙攣を繰り返す彗は最早虫の息でした。
「そんな、私のことを身を挺して護ってくださったなんて……誰か、誰かこの方を医務室に!」
 そんな声を聞いたあたりで、彗の意識は途切れていったのです。



「ん……」
 そんな彗が次に目を覚ましたのは医務室でした。
 多少鳩尾辺りは痛むものの、どうやら無事生還できたようです。
「あ、気がつかれましたか!」
 すぐ傍にいた秋乃姫が慌てて立ち上がります。
「よかった、ご無事で……」
 多少赤らんだ顔で、秋乃姫は表情を綻ばせます。
 ここに他の男性がいれば間違いなくその表情にノックアウトされていたことでしょうが、あいにくまだ意識の朦朧としていた彗はその表情を見ていませんでした。
「ん……あれ、あんたは……」
 ようやくしっかりしてきた頭で、彗は秋乃姫の方に目を向けます。
「あ、申し送れました。私は秋乃と申します。先程は、どうもありがとうございました」
 平民な上、家でのポジションも低かった彗ですが、自分の住んでいる国の姫の顔くらいは言われるまでもなく知っていました。
 慌てて、ベットの上で上半身を起こします。
「えー、あー、これは姫におきましてはご機嫌麗しゅう……って、この場面じゃそんな挨拶じゃないのか……えっと、先程は失礼おば……」
 慣れない……というよりも使ったこともない上流階級の言葉を必死で使おうとし、彗はしどろもどろになります。
 そんな彗に、秋乃姫はクスリと笑いました。
「そんなに堅苦しい言葉遣いはしなくていいですよ。なにせあなたは、私の命の恩人なんですから」
「いや、それは結果論なんだけど……ていうか姫様、あなたはこんなところにいる場合じゃないんじゃないですか?」
 お言葉に甘え若干ラフになった言葉遣いで、彗は秋乃姫に尋ねます。
 今夜の舞踏会は秋乃姫のために開かれたはず。
 主賓のいない舞踏会などシャレになりません。
「いいんです、どうせ意味のない舞踏会ですし……」
「意味がないってこともないでしょう……せっかくの……あぁ、そうか」
 ふと、彗は思い出します。
「少なくともあなたのその美しい姿を見られるだけで、我々男性にはこの上ない意味があるものとなりましょう」
 上流階級の人間は、こういう場面では気の利いたセリフを口にするものだと彗は聞いていたのです。
 その彗のセリフは大して気の利いたものではなく、実は上流階級の人間でもそんなことを言うのがごく一部の限られた人間だけだったのですが、そんなことは庶民の彗は知りません。
 しかし、そんな彗の言葉に秋乃姫の顔は真っ赤に染まります。
「そ、そんな。あの……」
「ん、あれ。やっぱりこんなセリフはダメでしたか。姫様が美しいのは本当なんですけど……上手く表現できなかったみたいです、すみません」
 ペコリと頭を下げる彗に、秋乃姫は慌てて首を振ります。
「い、いえ! すすすす素晴らしいお言葉を! どうも、ありがとうございます!」
 ますます赤く染まる顔で、しかし秋乃姫の目に決意の光が宿りました。
 後には一国を背負うこととなる身、決断力は大切なのです。
「あ、あの! いきなりこんなことを言うのは非常識かもしれないんですけど、その、私と……あの、私の……」
「?」
 何かを必死に伝えようと、しかし一向に伝わらない秋乃姫に彗が首をかしげた時です。
 ボーン、ボーン、と城の大時計が鐘を鳴らしたのです。
「ん、あれ……? すみません姫様、今何時ですか?」
「あ、えっと、12時のようですね」
「ぬぉマジか! そんなに寝てたのかよ!」
 12時といえば、魔法使い円花と約束した時間です。
 早く帰らなければカエルに変えられてしまうかもしれません。
 彗は慌ててベッドを飛び出します。
「すみません、姫様! 俺はこれで失礼します!」
「え? あ、そんな!」
 秋乃姫が何か声をかける暇もなく、彗は素早く部屋を出て行ってしまいました。
 残された秋乃姫は、一人呆然と彗が出て行った後の扉を見つめています。
 しかし、すぐにその目に宿ったのは先程よりも数段強い決意の光だったのです。
「あぁ、愛しい方……必ず、見つけ出してみせます!」
 


つづく

過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~シンデレラ 事件編 愛憎と、空腹と~

 昔々あるところに、彗という名の少年がいました。
 彗は、意地悪な継(まま)カプタインと義(あね)朱麗にいじめられて日々を過ごしていました。
「継カプタイン、義朱麗ってどういう表現だよ……継母、義姉みたいなもんなのか……?」
 そんな風に聞こえもしないはずのナレーションにツッコミを入れるという神業を発揮しながら、今日も彗は家の掃除をしています。
 しばらくすると、家に継カプタインと義朱麗が帰ってきました。
 帰ってくるなり、早速継カプタインは彗に意地悪をします。
「ヒャッハッハッ水だーっ!! たっぷり水を持って帰ってきたで! ただし、すーやんにはやらんけどなぁ!」
「なんでそんな世紀末チック!? 別にここ水に困ってるような地域でもないし!」
「ふ……おカプタイン様に口答えするとは、いい度胸だね彗君」
 ズズイと、継カプタインの後ろから義朱麗が顔を出します。
(おカプタイン様ってなんだ……お母様、みたいな概念なのか……?)
 彗はそんなことを思っていましたが、口には出しません。
 なぜならばそれはいわば設定レベルの話であり、彗が口を出すべきところではないからです。
 そんなもどかしさに苦しむ彗に、義朱麗は顔を近づけていきます。
「な、ちょ……」
「んっ」
 彗と義朱麗の唇が重なりました。
 彗は、自分の中のエネルギーが義朱麗の方に流れていくのを感じます。
 数秒すると義朱麗は唇を離し、彗はその場に倒れました。
 あまりの激しさに腰が砕けたわけではありません。
「ふふ……今日もいい味だったよ」
 意地悪げに、しかし満足げに義朱麗は笑いました。
 死神であるという設定はちゃっかり生きている義朱麗は、彗の魂のエネルギーを吸い取ることができるのです。
「ちゃっかり生きてるとか言うなよ……」
 そして義朱麗は、もちろん彗のことが憎くてこんなことをしているのではありません。
 むしろその逆。
 義理の弟である彗のことを愛してしまい、しかしそんな自分に素直になれない義朱麗は不器用な方法で自分の愛を表現するしかないのです。また、そんな風にしかできない自分を最初の方こそ疎んでいた義朱麗ですが、最近はそんな風に彗を苛めるような愛情表現に昏い悦びを感じる自分にも気付いていました。立場上自分に逆らうことのできない彗を自分色に染め上げ、いつかは自ら喜んで自分の足元に膝を着くような犬に調教してやろうかという計画も胸の片隅で進行しているほどです。そういう設定なのです。
「無駄にそこの設定長いな! 義姉にそんな細かい設定いらんだろ! どうせほとんど出てこないんだし!」
 そんなエロゲちっくな設定なのです。
「しつこいな! ていうか設定設定言うな!」
 いわば義朱麗はツンデレラなのです。
「そんな使い古されたネタいらんわ!」
 さて、そんな設定量にあからさまに差のある継カプタインと義朱麗ですが、今日は遊びに出かけていたわけではありません。
 今夜お城で開かれる舞踏会で着る衣装を取りにいっていたのです。
「ははは~、楽しみやなぁ舞踏会。けどすーやん、もちろん君はお留守番やで?」
「わかってるよ。別に舞踏会なんて興味もないし」
 継カプタインに適当な返事を返す彗、その顎に指を当て義朱麗はクイと彗の顔を上げさせます。
「そうやって強がっていられるのもいまのうちさ……すぐに、素直に懇願するようになる」
 鬼畜系ゲームの主人公が吐きそうなセリフと共に、義朱麗はさらにニヤリと笑います。
「もっとも、そうなっても連れて行ってはあげないがね……君は私だけを見ていればいいのさ」
「いや、ホントに興味ないんだけど……」
 そうして彗を置いて、継カプタインと義朱麗はお城の舞踏会に行ってしまいました。
 一人残された彗は洗濯物の取り入れと掃除を終え、夕食の後片付けも終わったところで一息をつきます。
「ふぅ……」
 今日の仕事を全て終え、どこか解放感を感じさせる表情で一息ついた彗の姿は主婦そのものです。
 突然彗の目の前に光が現れたのは、その時でした。
「な、なんだ!?」
 強い光が彗の目を襲ったのは一瞬でした。
 きつく目を瞑っていた彗は恐る恐る目を開けます。
 すると、目の前には先程までは確かにいなかったはずの女の子が立っているではありませんか。
「こんばんは、彗さん」
 魔法使い円花は、そう言ってにこやかに挨拶をします。
「私にはわかっていますよ。彗さんも、本当はお城の舞踏会に行きたいんですよね?」
「いや、だからホントに興味ないんだけど……」
 勝手に気持ちを推し量ってくる魔法使い円花に、彗は幾分冷静さを取り戻してきた頭で返します。
「それじゃ、さっそく馬車と御者を用意しますね」
「人の話を聞けよ」
 魔法使い円花は、それでも自分の作業を止めようとはしません。
 どうやらマイペースな上、思い込んだら周りが見えなくなるタイプのようです。
 魔法使い円花は、大きな判子を一振り。
 すると現れたのは……
「それじゃ、このレゴブロックの人のやつを御者に、カボチャパンツを馬車に、那須与一宗隆を馬に変えますね」
「一旦待て。ちょっとツッコミどころが多すぎる」
 ふぅと息を吐き、彗は頭の中を整理します。
「まず御者に変わるのはネズミかなんかじゃなかったか?」
「いやぁ、だってネズミって触るの嫌じゃないですか。ハムスターとかならともかく」
「……まぁいい。後がつかえてるし、レゴブロックであることとかも含めてその辺はスルーしておこう。で、次にだ。カボチャパンツってなんだ。普通馬車に変わるのは本物のカボチャだろ」
「いやぁ、道中小腹がすいたもんで」
「食べたの!? カボチャ一個って結構小腹がすいた程度じゃ食べきれないぜ!?」
「大丈夫ですよ、このカボチャパンツは新品ですから」
「誰もそんなことについては言及してねぇよ!」
「あ、それとも私が履いた後のやつの方がよかったですか?」
「だから人の話を聞けって! んで、最後にだ!」
 彗はカボチャパンツ、レゴブロックと共に現れ、弓を携えたまま静かに直立している那須与一宗隆を指します。
「なんだ那須与一宗隆って!」
「いやぁ、道中小腹が……」
「ナスを食っちゃったってのはなんとなく想像がつくよ!? なんでその代わりが那須与一宗隆なんだよって話だ!」
「彗殿、拙者のことは気にしないでいただきたい。拙者、忠義を誓った円花様のためなら馬になることも厭いませぬ」
 那須与一宗隆は、弓の名手なだけでなく忠義に厚い男でした。
「いや、申し訳ないがアンタの体を案じているわけでもないんだが……つーか、ウチにナスあるからもうそれ使えよ」
「それはありがとうございます。それじゃあ後で麻婆ナスにでもしていただきますね」
「なんで食用!? 馬に変えろよ!」
「それでは……ぱぱらぱぱ~」
 最後まで一切彗の話を聞くことはなく、魔法使い円花は適当な呪文でレゴブロックとカボチャパンツと那須与一宗隆を御者と馬車と馬に変えてしまいました。
「さぁ、乗ってください」
「……わかった」
 彗は、素直に馬車に乗り込みます。
 色々と諦めたということもありますが、何よりもここで乗らなければ馬に変えられた那須与一宗隆に申し訳ない気がしたからです。
 こうして彗は、本人の意思はあまり考慮されないままお城の舞踏会に参加することになったのでした。


 一方その頃、家に残された魔法使い円花は。
「~♪」
 彗からもらったナスで麻婆ナスを作ろうとしていました。
 しかし豆板醤に手をかけたあたりで、魔法使い円花はふと気付きます。
「……あ、彗さんの服変えるの忘れてました」
 後に魔法使い円花は、このことを深く後悔することになります。
 なぜならば、彗の服のことに気をとられて豆板醤を入れるタイミングを完全に逸してしまっていたからです。
 中華は、火力とタイミングが命なのでした。







過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~浦島太郎 第四話 さらば竜宮城~

「いい加減、もうそろそろ帰ろうと思うんだが……」
 彗さんは、今日も朱麗様にそう言いました。
 もう何度目、何百度目になるでしょう。
 なし崩し的に、彗さんはもうずっと竜宮城に滞在しています。
 提案の度に、朱麗様は彗さんの帰還を拒絶し宴会を続けていたからです。
 しかし、今日の朱麗様は少し様子が違いました。
「そんなに帰りたいのかい?」
「……え?」
 てっきりいつもと同じ返事が返ってくるものだと思っていた彗さんは、予想外の答えに思わず聞き返します。
「そんなに帰りたいのかい、と聞いているのさ」
「あ、あぁ……そうだな。やっぱり俺には、漁師の生活が向いてるらしい」
「そうか」
 朱麗様は、、そう言って笑いました。
 しかしその笑みに、いつもの力強さはありません。
「では、用意をさせるとしよう」
「え? あ……」
 どことなく弱い笑みのまま、朱麗様は竜宮城の奥へと消えていきました。
 彗さんは思わず手を差し出してしまいますが、かけるべき言葉は見つかりませんでした。
 いえ、むしろ自分がなぜ思わず手を差し伸べてしまったかさえもわからなかったのです。
 気付かず去っていく朱麗様の背中を見ながら、彗さんは出しかけた手を静かに引っ込めました。
 やがて、しばらくすると何かが竜宮城の奥から帰って来ます。
 しかし、それは朱麗様ではなく足の生えた金魚でした。
「では、帰りも私がお送りしましょう」
「あぁ、そうか。よろしく頼む」
 竜宮城滞在期間中に不本意ながら見慣れてしまった彗さんは、普通に足の生えた金魚に返事をしました。
 そしてその後、キョロキョロと周りを見回します。
「あー、その……」
「朱麗様なら、見送りにはいらっしゃいませんよ」
「……そうか」
 そう聞いたとき、なぜか彗さんの胸にチクリと痛みが走りました。
「代わりにこれを、と預かっています」
 そう言って、金魚は少し大きめのボストンバックを差し出します。
「あぁ。じゃあ、ありがたくもらっておく」
 彗さんは素直にそのボストンバックを受け取りました。
「ぬぉ、結構重いな……何が入ってるんだ?」
「さて、私は中身までは。ただし、決してあけぬようにと朱麗様から言付かっています」
「は、じゃあなんでそんなもん渡すんだよ」
 彗さん軽く笑います。
 自分は気付いていませんでしたが、その笑みは先程の朱麗様のものととてもよく似たものでした。
「それでは、そろそろ参りましょうか」
「あぁ」
 そう言って足の生えた金魚は一歩踏み出し。
「ネリチャギ!」
「おぉっ!?」
 明らかに限界可動領域を超えた動きで、足の生えた金魚は見事な踵落としを放ちました。
 しかしいくら不意打ちでも一度見た攻撃。
 彗さんはなんとかそれを避けます。
「な、何すんだよ! 今回はちゃんと俺も同意してんだろ!?」
「いえ、気絶していた方が飲み込む水の量が少なくてすみますから」
「うそぉ、俺普通に生身で水の中通ってここ来てたの!? 不思議な力とかで護られてたんじゃなかったのかよ!?」
 気絶していた最中の出来事、まさかのカミングアウトでした。
「というわけで……ネリチャギ!」
「うぉ!?」
 再び足の生えた金魚は踵落としを放ちました。
 しかし、今度は不意打ちですらないそれは彗さんは避けます。
 その時です。
「ティチャギ!」
「ぐぼっ!?」
 流れるように、足の生えた金魚の攻撃は後ろ回し蹴りへと移りました。
 あまりに鮮やかなコンボに、彗さんも今度は避けきれずもろにもらってしまいます。
 そうして気絶した彗さんを、足の生えた金魚は腕もないのに器用に背中に乗せたのです。



 次に彗さんが気付いたのは、いつかの浜辺でした。
 何百年もの時が経っているなんてこともなく、彗さんが生まれてからずっと過ごした見慣れた風景でした。
 足の生えた金魚は彗さんが気付いた時にはもういませんでしたが、代わりに彗さんの足元には例のボストンバックが置かれています。
「ふぅ……ようやく帰ってきたか」
 彗さんはなんとなくそう口にしてみました。
 しかし喜びを表現したはずのその言葉は、なぜか虚しく響きます。
「……疲れてんのかな。帰って寝るか」
 拉致られ、長い間監禁されていた場所からようやく開放されたのです。
 疲れているのも当然ではありませんか。
 そう思って、彗さんはとりあえず自宅に帰ることにしました。
「んじゃ、俺はそろそろ帰るか……ら」
 隣にそう言おうとして、彗さんはそこに誰もいないことを思い出しました。
 この間まで、何度も口にしていたセリフ。
 その時いつも返ってきた言葉は、もちろん今はありません。
「は、なんだそりゃ……」
 思わず口に出てしまった言葉に、彗さんは苦笑いを浮かべます。
「んじゃ、いざ懐かしの我が家へ!」
 自らを鼓舞するように景気良く言い、彗さんがボストンバックを手にとろうとしたその時です。
「ん……なんだ、ようやく着いたのか?」
 声が聞こえました。
 どこかで聞いたことのある声です。
 彗さんは周りを見回します。
 しかし、どこにも誰もいません。
 その代わり、ジジジ……という音が足元で鳴りました。
 彗さんが視線を下ろすと、なんとそこではボストンバックのチャックがひとりでに開いていっているではありませんか。
「な……?」
 驚きの表情で、彗さんはそれを見つめることしかできません。
 やがて口が全部開き。
「よっ」
 そんな言葉と共にボストンバックから飛び出したのは。
「エスパー伊東!?」
「ん? 何を言っているんだ、君は」
 ボストンバックから飛び出したのはエスパー伊東ではありませんでした。
 一般的にボストンバックから出てくるのはエスパー伊東だけだと思われがちですが、例外的にそうでない場合も存在するのです。
「やぁ、大体一時間ぶりほどだね」
 そこで過ごした時間は、彗さんの生きてきた年数全体でいえばそう長い時間ではありません。
 しかしなぜでしょう、彗さんの胸の中に占める割合は一番大きくなってしまっていたのです。
 日常と呼ぶものが、すっかり”そちら”に移ってしまっていたのです。
「どうした彗君、そんな狐につままれたような顔をして」
 そう言って朱麗様は、彗さんにとってはすっかり見慣れた笑顔を浮かべます。
 一方の彗さんは、まだ驚きの表情で固まったままでした。
「な、なんで……」
「なぜ? だって、君は帰りたかったのだろう? なら私の方がこちらに来るしかないじゃないか」
 当然だ、とばかりに朱麗様は言います。
「それとも、私と一緒にいるのが嫌だとでも言うのかな?」
 そう言って朱麗様は不敵に笑います。
 しかし……その中にはほんの少し、不安が混じっていました。
 しばしあっけにとられていた彗さんですが、やがてその表情は笑みに変わります。
 先程とは違う、本物の笑みです。
「いや。けど、あんまり飲みすぎないくれよな」
「安心していい、酒は随時竜宮城の方から運ばせるようにしよう」
「そういう問題じゃないってんだよ」
 苦笑いの、しかしどことなく嬉しげな彗さんと、こちらは見た目からして喜びに満ちている朱麗様。
 こうして、二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。
 めでたしめでたし。



 お わ り


過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~浦島太郎 第三話 あぁ竜宮城~

「どうした彗くん、もっと飲め」
「いや、そんなにパカパカ飲めねぇよ……」
 彗さんと朱麗様は、連日連夜ぶっ通しで飲み続けておりました。
 不思議空間竜宮城ならではの荒業です。
 良い子は現実世界で真似をしてはいけません。
「ふむ、ではどんどん食べたまえ。料理はどんどん用意させるよ」
「毎日中華っていうのも、なんかこうなぁ……」
 竜宮城にて出される料理は、満干全席もかくやというほど豪華絢爛なものでした。
 中華好きならば、誰もが夢見る素敵シチュエーションです。
 しかし日々魚などの比較的あっさり系のものばかりを食してきた彗さんには少々カロリーが高すぎたのです。
「にゃに、この私の出すものは何も口にできんというのか」
 朱麗様は、若干ふらふらした様子で彗さんにしなだれかかってきます。
「散々飲み食いさせてもらったから……ってか酒臭っ! あんたはちょっと飲みすぎじゃないのか!?」
「ははは、何を言う。今日はまだ三樽ほどしか飲んでいないさ」
「既に樽単位!?」
 いくら飲もうと体に害を及ぼすことのない不思議空間竜宮城ですが、しっかりと酔いは回ります。
 朱麗様の目は、もうあからさまに据わっていました。
「さぁ、とにかく飲もうじゃないか」
「てか、そろそろ帰ろうと思うんだが……」
「にゃにをー? 君が帰ってしまっては、毎日飲めや歌えやの騒ぎができなくなるじゃないか!」
「俺そんな理不尽な理由で拘束されてんの!?」
 しかし自力で帰還する手段のない彗さんは、朱麗様の許しをもらわない限り家に帰ることができません。
 こうして彗さんは、今日も竜宮城に滞在し続けるのでした。


つづく



過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~浦島太郎 第二話 そして竜宮城~

「やぁ、よく来たね。ゆっくりしていくといい」
 拉致された彗さんが連れてこられたのは、海の中にある竜宮城でした。
 それはそれは美しい竜宮城では、それはそれはそれは美しい朱麗様が彗さんを迎えてくれます。
「いや、来たばっかでアレなんだけどもう帰らしてもらおうかと……」
「まぁそう言わずに。君のために豪華な中華も用意したんだ」
「なんで中華なんだよ!」
「おいしそうだろう?」
「確かにそうだけど! 竜宮城らしさゼロ!?」
「ほらみんな、お客様をもてなすぞ」
 パンパンと朱麗様が手を叩くと、そこかしこから魚達が現れました。
 ヌラヌラした鮒やどこか虚ろな目をした金魚、さらに彗さんをここに拉致してきた足の生えた金魚もおりました。
「つーか、あいつら淡水魚なんじゃね……?」
「はっはっは。そこが竜宮城の不思議パワーだ」
「竜宮城の不思議パワーなのはいいんだが、俺をここに連れてくるときは普通に海ん中泳いでたと思うんだが……」
「まぁ、彼は特別だからね」
 朱麗様は、”彼”と足の生えた金魚を見ます。
「……確かに何かしら特別そうではあるけど」
 彗さんも、それ以上は言及することはありませんでそた。
 あまり関わり合いになりたくなかったのです。
「よーしみんな、それでは始めよう!」
 もう一度朱麗様が手を叩くと、鮒や金魚の舞い踊りが始まりました。
 ヌラヌラしていたり足が生えていたりと、それはそれは幻想的な光景です。
「さぁ、彼らの踊りを見つつ遠慮せずに食べてくれ」
「むしろ一気に食欲なくなったんだが……」
 こうして、彗さんの竜宮城での暮らしは始まったのです。




過去SS更新:スタンプ・デッド昔話 ~浦島太郎 第一話 いざ竜宮城~

 昔あるところに、彗さんという漁師がいました。
 ある日のことです。
 いつものように浜辺を歩いていると、彗さんは子供達が何かを取り囲んでいるのを見つけました。
 少し気になった彗さんは、子供達の方に近づいていきます。
 するとどうでしょう、なんと子供たちは一匹の足の生えた金魚をいじめているではありませんが。
 そこで、彗さんは足の生えた金魚を助けてあげることにしました。
「……ってちょっと待て。あんな生物に関わっちゃダメだろ。見なかったことにしていつも通り漁に……」
 首を振り、回れ右をしようとする彗さん。
 ところがどっこい、そうはいきません。
 物語という名の強制力が、彗さんの足を無理矢理に子供達の方に向けます。
「うぉ、なんだこれ……足が勝手に……」
 そして、彗さんは子供達に言います。
「これこれ、生き物をいじめてはいけないよ……って、口が勝手に! なんだよこれ!」
 足の生えた金魚をいじめていた子供達は、彗さんに目を向けました。
 そして一人で「口が勝手に……」などとわけのわからないことを言っている彗さんを気味悪げに見つめます。
 やがて子供達は、精神に異常をきたしている可能性のある彗さんを恐ろしく思いさっさと逃げ去っていきました。
 こうして、彗さんは足の生えた金魚を助けたのです。
「結局助けちゃったよ! しかも助け方最悪だな!」
「いやはや……助かりました。ありがとう、親切な人」
 むくりと起き上がった足の生えた金魚は、丁寧に彗さんに頭を下げ……ようとしたのでしょうが、魚の体構造上それは不可能でした。
「親切な方、お礼に竜宮城へとお連れいたしましょう」
「いやいいよ……気持ちだけもらっとく」
 足の生えた金魚の申し出を断りさっさとこの場を離れようとする彗さんですが、しかしすばやく回り込まれてしまい逃げることはかないません。
「いやいや、遠慮せずに」
「別に遠慮じゃなくて……ホントにいいって」
 足の生えた金魚はヌラヌラした肌で、グイグイ彗さんを押しとどめようとします。
 その見た目と感触は果てしなく嫌でしたが、彗さんも必死で抵抗を試みました。
 このまま流されれば大変なことになるであろうと、彼の冴え渡る第六感が全力で告げていたのです。
 やがて、足の生えた金魚は諦めたように力を抜きます。
 彗さんも、ほっとした表情になりました。
「そうですか……仕方ありませんね」
「あぁ、悪いけどまた今度の機会にでも……」
「ネリチャギ!」
「ぐぼ!?」
 明らかに限界可動領域を超えた動きで、足の生えた金魚は見事な踵落としを彗さんに決めました。
 油断したところに叩き込まれ、彗さんは綺麗に気絶します。
 そんな彗さんを、足の生えた金魚は腕もないのに器用に背中に乗せました。
「よし。それでは、竜宮城へ参りましょうか」
 何事もなかったかのように、足の生えた金魚は海の中へと入っていきます。
 彗さんに拒否権はありません。
 こうして、彗さんは竜宮城へと拉致監禁されることとなったのです。



つづく(可能性もある)



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